里帰り出産にかかるお金と段取り

里帰り出産にかかるお金と段取りのアイキャッチ

妊娠が分かって最初の健診の帰り道、母から電話がかかってきた。「こっちで産みなよ、実家なら誰かしら手が空いてるし」。ありがたい申し出だったが、電話を切ったあとに浮かんだのは喜びより先に段取りへの不安だった。今通っている産院はどうする、いつ帰ればいい、紹介状って何、里帰り先の妊婦健診はお金がどうなるのか――知らないことが多すぎて、何から調べればいいのかも分からなかった。

里帰り出産で最初に決めるべきは「帰る時期」と「紹介状の依頼」の2つで、費用面では出産育児一時金と妊婦健診の助成という2つの公的な仕組みを知っておけば大きく慌てずに済む。段取りと費用の全体像を、時系列で整理する。

目次

里帰り出産の段取りを時系列で

里帰り出産は、大きく分けて「今の産院を離れる準備」と「実家近くの産院を確保する準備」を並行して進めることになる。実家近くで出産する意思が固まったら、できるだけ早い段階で里帰り先の候補病院に電話をかけ、現在の妊娠週数と出産予定日、里帰り出産を希望している旨を伝えるところから始まる。人気の病院ほど分娩予約が早く埋まるため、確認と予約は妊娠中期のうちに動いておきたい。

里帰り出産の段取りタイムライン図。妊娠中期に里帰り先の病院へ電話、32〜34週までに帰省、帰省後に紹介状を持って初診、出産という流れ
里帰り出産の段取りタイムライン ※概念図(実測データではありません)

帰省の時期は妊娠後期の前が目安

帰省の時期は、里帰り先の病院が分娩予約の際に指定する期限までに移動を終えるのが基本だ。妊娠後期に入ると健診の間隔が2週間ごと、さらに1週間ごとと短くなっていくため、間隔が詰まる前に移動を済ませておくと通院の負担が小さい。移動そのものも、お腹が大きくなるほど長距離移動の負担が増し、陣痛が移動中に始まるリスクも高まる。飛行機を使う場合、出産予定日の28日前以降に搭乗するときは医師の診断書や本人の誓約書が必要になることがあるため、里帰り先の病院に相談しながら移動手段と時期を決めるのが安全だ。

紹介状は今の産院に早めに依頼する

紹介状(診療情報提供書)は、今通っている産院からもらい、転院先の病院に提出する書類だ。これまでの健診結果や検査値、既往歴がまとめられており、転院先の医師が引き継ぐ際の重要な判断材料になる。文書料として数千円程度の実費がかかるのが一般的で、発行までに数日かかることもあるため、帰省の日程が決まったら早めに依頼しておきたい。転院先の初診では、この紹介状をもとに改めて健診計画が立てられる。

出産費用はいくらかかるか

出産にかかる費用の中心にあるのが、公的医療保険から支給される「出産育児一時金」だ。厚生労働省によると、公的医療保険の加入者が出産したとき、子ども1人につき原則50万円が保険者から支給される。この金額は令和5年4月から、それまでの42万円から13年ぶりに引き上げられたものだ。妊娠4か月(85日)以上での出産であれば、出産の方法や場所を問わず支給対象になる。

直接支払制度なら窓口負担は差額だけ

多くの出産施設では「直接支払制度」を利用できる。この制度では、出産施設が本人に代わって保険者へ出産育児一時金の支給申請を行い、保険者から施設へ一時金が直接支払われる仕組みになっている。本人が窓口で支払うのは、費用の総額から一時金の支給額を差し引いた残りの額だけで済む。総額が一時金の支給額を下回った場合は、差額を後から受け取ることができる。里帰り出産の場合、直接支払制度を利用できるかどうかは施設によって異なるため、里帰り先の病院に早めに確認しておくと窓口での慌てを防げる。

出産育児一時金の直接支払制度のお金の流れ図。保険者から出産施設へ一時金が直接支払われ、本人は差額のみ窓口で支払う
出産育児一時金の直接支払制度のお金の流れ ※厚生労働省「出産育児一時金等について」を基に作成

「出産なび」で施設ごとの費用を調べる

出産にかかる費用は、地域や施設の種類によって差がある。厚生労働省は、全国の出産施設ごとの費用やサービス内容を調べられるウェブサイト「出産なび」を公開している。各施設のスタッフや設備、ケア・サービスを同じ様式で一覧化しているのが特徴で、書式のばらばらな公式サイトを1件ずつ見比べる手間が省ける。地域や駅・路線、施設名から検索でき、出産費用もあわせて確認できる。里帰り先の候補病院が決まったら、まずここで引いてみるとよい。今通っている産院との費用差を事前に把握しておけば、窓口で戸惑わずに済む。

一時金の受け取り方は3種類ある

出産育児一時金の受け取り方には、直接支払制度のほかに「受取代理制度」と「償還払い制度」がある。受取代理制度は、加入している保険者に自分で支給申請を行い、出産施設が本人に代わって一時金を受け取る仕組みで、主に小規模な診療所や助産所で採用されている。償還払い制度は、いったん出産費用を全額自己負担で支払い、あとから自分で保険者に申請して一時金を受け取る方法だ。どの制度を採用しているかは施設によって異なるため、里帰り先の病院に事前確認が必要になる。なお、一時金の申請期限は出産日の翌日から2年以内と定められている。

出産育児一時金の受け取り方3種類を比較した図。直接支払制度・受取代理制度・償還払い制度
一時金の受け取り方3種類 ※厚生労働省「出産育児一時金等について」を基に作成

妊婦健診の費用と里帰り時の助成

妊娠が分かって自治体に妊娠届を提出すると、母子健康手帳とあわせて妊婦健康診査の受診票が交付される。標準的なスケジュールでは、最大14回分の健診費用が公費で助成される仕組みになっている。ただし、この受診票は交付を受けた自治体内の医療機関でしか使えないことが多く、里帰り先の病院では使えない場合がある。

里帰り先では「償還払い」で申請する

里帰り先の病院で受診票が使えない場合は、いったん健診費用を自己負担で全額支払い、あとから自治体に申請して助成分の払い戻しを受ける「償還払い」という方法を使う。申請には受診票の写しや領収書、母子健康手帳などが必要で、還付できる期間や1回あたりの上限額は自治体ごとに定められている。一例として東京都中野区では、還付請求可能期間は出産日(または妊娠の終了)から1年以内で、各回の上限額は1回目11,670円、2〜14回目5,460円と定められている(令和8年4月1日以降の額)。金額も期限も自治体ごとに違ううえ、こうして改定もされるので、必ず自分の自治体の最新のページで確かめてほしい。帰省が決まった時点で、母子健康手帳を交付された自治体の窓口に、償還払いの手続きを確認しておくと安心だ。

妊婦健診14回の公費補助を里帰り時にどう使うかの比較図。交付元の自治体で受診する場合と里帰り先で償還払いを申請する場合
里帰り時の妊婦健診費用の受け方 ※東京都中野区「里帰り等妊婦健康診査等助成金」を基に作成

医療費以外にもかかるお金

里帰り出産では、分娩費用や健診費用のほかに、見落としがちな支出がある。実家までの往復の交通費、里帰り期間中の食費や日用品費、そして今の家の家賃や光熱費は、里帰り中も並行して発生する。実家に生活費として一定額を渡すかどうかは家庭ごとの考え方が分かれるところで、事前に金額の目安を家族間ですり合わせておくと、産後に気まずい思いをせずに済む。お金の話を切り出す順番に迷うなら、家族会議のやり方で整理した段取りがそのまま使える。パートナーが里帰り先を訪れる際の交通費や宿泊費も、複数回になると無視できない金額になる。移動回数や訪問時期をあらかじめ話し合っておくと、直前になって慌てずに計画できる。

里帰り出産で医療費以外にかかるお金の内訳図。実家までの交通費・里帰り中の生活費・今の家の固定費・パートナーの訪問費
医療費以外にもかかるお金の内訳 ※概念図(実測データではありません)

実家近くで用意しておきたいもの

出産準備の中身は、今の家で用意する分と、実家に置いておく分に分かれる。里帰り先には、母子健康手帳・健康保険証・受診票の控え・印鑑・現金またはキャッシュレス手段を早めに送っておくと、帰省後にすぐ動ける。産後は自分の体調と新生児の世話で手一杯になりやすく、里帰り前に育児の見通しを立てておくと気持ちに余裕ができる。育児の基本を体系的に押さえておきたいなら、松田道雄の「定本 育児の百科」のような育児の総合リファレンスに目を通しておくのも一つの方法だ。

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実家に生活の拠点を移す期間があらかじめ分かっているなら、パートナーとの間で話し合っておきたいこともある。家事や上の子の世話の分担、里帰りからいつ戻るかといった点だ。

出産を機に見直したいお金の話

里帰り出産の準備を進めていると、家計全体を見直すきっかけにもなる。子どもが増えることで教育費や生活費の見通しが変わり、今のままの保障で足りるのかと感じる家庭は多い。生命保険は結婚したら本当に必要かで紹介した必要保障額の考え方は、出産を控えた家庭にもそのまま当てはまる。里帰り中は実家で落ち着いて話す時間が取りやすいので、パートナーと保険や家計について話し合う機会にしてもよいだろう。

お金と段取りのチェックリスト

  • 里帰り先の病院に、現在の妊娠週数・出産予定日・里帰り出産を希望する旨を電話で伝え、分娩予約の可否を確認したか
  • 帰省の時期を、里帰り先の病院が指定する期限に収まるよう、今の産院と里帰り先の病院の両方と相談して決めたか
  • 今の産院に紹介状(診療情報提供書)を依頼し、里帰り先の初診までに間に合うよう発行時期を確認したか
  • 里帰り先の病院で直接支払制度が使えるかどうかを確認し、使えない場合の受け取り方法を確認したか
  • 母子健康手帳を交付された自治体で、里帰り出産時の妊婦健診費用の償還払いの申請方法と上限額を確認したか

母からの電話に浮かんだ不安の大半は、帰る時期と紹介状の依頼、そして出産育児一時金と妊婦健診の助成という2つの公的な仕組みを知っているだけでずいぶん軽くなる。

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里帰り中にパートナーとどう分担するかを話し合うなら、父親側の視点で書かれた本を一冊はさむと論点が整理しやすい。次のような本が候補になる。

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出産費用や助成額の細かな金額は、自治体や施設によって異なる。本記事の内容は一般的な整理を参考として示したもので、個別の給付を保証するものではない。実際の手続きと金額は、母子健康手帳を交付された自治体の窓口と里帰り先の医療機関で必ず確認してほしい。

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この記事を書いた人

4人家族で妻、息子、娘で関西に新築建てて住んでいます。日々、家族の要望に応えられるように未来に関係しそうなことやお金に関すること調べてこっそり、生活に取り入れています。

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