給与明細に並ぶ数字は、産休に入る月を境に、いつもと違う顔に変わる。基本給の欄は空欄になり、代わりに「出産手当金」「育児休業給付金」という聞き慣れない名前の入金が、月をまたいで少しずつ届くようになる。
その額は、休業前の給与と同じではない。いつ、どこから、いくらの形で入ってくるのか。知らないまま産休に入ると、家計の見通しは立てにくい。
お金の入り方は、直線ではなく段差でできている。
半年間のお金の流れ

産前休業から育休の前半までを一本の線で見ると、入金の種類は四つに分かれる。産前42日(多胎妊娠は98日)から始まる「出産手当金」、出産のときに一度だけ入る「出産育児一時金」、産後休業が明けてから始まる「育児休業給付金」、そして2025年4月に新設された「出生後休業支援給付金」である。
窓口も途中で入れ替わる。前の二つは健康保険からの給付で、会社員なら加入する健康保険の保険者が扱う。あとの二つは雇用保険からの給付で、勤務先を通じてハローワークに申請する。同じ「産休・育休中の収入」という括りに見えても、根拠になる法律も、書類の提出先も別である。この記事では、金額の決まり方と、支給が切り替わる境目の日付を、時系列の順に追っていく。
産前42日間の出産手当金
健康保険に加入している人が出産のために会社を休み、その間の給与が支払われないときは、出産手当金が支給される。全国健康保険協会(協会けんぽ)の説明では、対象になるのは出産の日(実際の出産が予定日より後になったときは出産予定日)以前42日、多胎妊娠なら98日から、出産の翌日以後56日目までの範囲で会社を休んだ期間である。出産日そのものは、産前の期間に数える。出産が予定日より遅れたときは、その遅れた期間も対象に加わる。

支給額は、休業前の給与そのものではなく、標準報酬月額を基にした日額の3分の2で決まる。協会けんぽがサイトに載せている計算例では、支給開始日以前12か月の標準報酬月額が16万円の期間と18万円の期間に半年ずつ分かれる場合、平均額は17万円になる。この30分の1が5,670円で、そこに3分の2を掛けた3,780円が1日あたりの支給額である。休んだ期間について給与の一部が支払われていても、その日額が出産手当金の日額を下回っていれば、差額分が支給される。
標準報酬月額が高い人ほど日額も上がるが、上がり方は比例するだけで、休業前の手取りと同額になるわけではない。3分の2という係数が、産前産後を通じてそのまま効いてくる。
出産育児一時金は別枠

出産手当金とは別に、子どもが生まれたときに一度だけ支給されるのが出産育児一時金である。協会けんぽの区分では、産科医療補償制度に加入している医療機関で在胎週数22週以降に出産した場合は1児につき50万円、加入機関でも22週に達しなかった出産と、制度に加入していない機関での出産は48.8万円となる。多胎児のときは、胎児数の分だけ支給される。
この一時金には、健康保険から医療機関へ直接支払う「直接支払制度」がある。利用すると、医療機関にまとめて支払う出産費用の負担が軽くなる。出産費用が50万円を超えれば不足分を窓口で支払い、下回れば差額があとから戻る。協会けんぽの案内によれば、下回った場合は出産後およそ3か月後に、差額申請に必要な書類が被保険者あてに送られてくる。
出産手当金が「休んだ期間の所得補償」であるのに対して、出産育児一時金は「出産費用そのものへの充当」である。性格の違う二つの給付が、産前産後の同じ時期に重なって動く。
退職と出産の時期が重なる場合も、条件を満たせば出産手当金は続けて受け取れる。資格喪失日の前日、つまり退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あり、その日に出産手当金を受けているか受けられる状態であればよい。ただし退職日に出勤してしまうと、この扱いは受けられない。
産後56日からの育休給付
出産手当金の対象期間が終わったあと、育児休業給付金に切り替わる。厚生労働省のQ&Aは、産後休業から引き続いて育児休業を取得した女性の場合、育児休業の開始日は出産日から起算して58日目になるとしている。支給額は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%(ただし、育児休業の開始から181日目以降は50%)」で算出される。
ここで注意しておきたいのは、181日目という境目が育児休業の開始日から数えたものだという点である。出産日から数えて181日目ではない。産後休業の56日を挟むぶん、実際に支給率が下がるのは出産からおよそ8か月後になる。

同じQ&Aが載せている概算例によると、育児休業開始前6か月間の総支給額が平均して月額15万円程度の場合、180日目までの支給額はおよそ月10万円、181日目以降はおよそ月7.5万円になる。月額20万円程度なら13.4万円と10万円程度、月額30万円程度なら20.1万円と15万円程度が目安である。実際の金額は、勤務先がハローワークに提出する賃金月額証明書によって確定する。
給付には上限額がある
育児休業等給付には、賃金がいくら高くてもそれ以上は出ないという上限額が設けられている。厚生労働省の案内によれば、令和8年8月1日以後の支給対象期間から、育児休業給付金の支給上限額は支給率67%で332,454円、支給率50%で248,100円に変わった。出生時育児休業給付金(産後パパ育休の給付金)の上限額は67%で310,290円である。計算の元になる休業開始時の賃金月額にも、上限496,200円と下限96,090円が設定されている。

これらの額は固定ではない。同じ案内は、毎月勤労統計の平均定期給与額の増減をもとに支給限度額を変更すると書いている。同じ「支給率67%」でも、いつの時点の制度かによって、実際に受け取れる上限は変わる。
2025年新設の給付金
2025年4月から加わったのが、出生後休業支援給付金である。厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」の説明では、子の出生直後の一定期間内に、両親がともに14日以上の育児休業(産後パパ育休を含む)を取得するなどの要件を満たすとき、育児休業給付金または出生時育児休業給付金に上乗せして支給される。支給額は「休業開始時賃金日額×支給対象日数(28日が上限)×13%」である。
この「一定期間」は、父親と母親で長さが違う。同サイトの支給要件によれば、子の出生日から起算して8週間を経過する日の翌日までが原則で、産後休業をした場合は16週間になる。産後休業のあとに育児休業へ入る母親には、その分だけ猶予がある計算になる。
配偶者の育児休業が要件にならない例外も定められている。厚生労働省のQ&Aは、配偶者がいない、配偶者が無業者である、自営業やフリーランスで雇用される労働者ではない、といった場合を列挙したうえで、単に配偶者の業務の都合で育児休業を取らないケースは含まないと明記している。夫婦そろって休まなければ必ず対象外、というわけではない。
なお、この制度は2025年4月より前に始まった産後パパ育休・育児休業にはそのままの形では適用されない。育休をいつ取得するかで、使える制度そのものが変わる。
手取りで見た半年間
額面の支給率だけを見ると、休業前の給与よりかなり少なく感じられる。ところが、手取りで比べると差はもっと小さい。

厚生労働省のQ&Aは、出生後休業支援給付金の説明のなかでこの点にはっきり触れている。育児休業給付の67%と出生後休業支援給付金の13%を合わせると支給額は休業開始時賃金日額の80%になり、育児休業中は申し出により健康保険・厚生年金保険料が免除されること、勤務先から給与が支給されない場合は雇用保険料の負担がないこと、育児休業等給付が非課税であることを加味すると、この80%は手取り10割相当の額になる、という書き方である。
社会保険料の免除については、日本年金機構が産前産後休業期間と育児休業等期間の両方について説明している。事業主が年金事務所に申し出ることで、健康保険・厚生年金保険の保険料が被保険者と事業主の両方について免除される。しかも、この免除期間は将来の年金額を計算するときに保険料を納めた期間として扱われる。休んでいる間、年金の記録が空くわけではない。
額面の減り幅だけを見て不安になるより、税と社会保険料が引かれない状態での手取りがどう動くかを見たほうが、この半年間の家計は読みやすいのではないだろうか。
総額で見る半年間の入金

ここまでの数字を、一つのケースに当てはめてみる。標準報酬月額が30万円程度で、育児休業開始前6か月の総支給額も月30万円程度、産休に入った日から数えて半年(182日)を区切りとして筆者が試算した。
まず産前42日と産後56日の合計98日は、出産手当金の期間になる。日額は30万円の30分の1である10,000円に3分の2を掛けた6,667円で、98日分でおよそ65万円。出産のときには出産育児一時金50万円が別枠で入る。育児休業給付金は出産日から58日目に始まり、半年の区切りまで残るのは84日ほど。休業開始時賃金日額10,000円の67%で日額6,700円だから、この期間はおよそ56万円になる。両親がそろって要件を満たしていれば、最初の28日分に13%の上乗せがつき、36,400円が加わる。合計しておよそ175万円である。
この試算で見落としやすいのは、支給率が50%に下がる181日目が、この半年のなかにはまだ来ないという点である。181日目は育児休業の開始日から数えるので、産休の開始日を起点にすると9か月近く先になる。半年で区切って眺めるかぎり、育児休業給付金はずっと67%のままだ。
もっとも、数字だけを並べると増えているように見えるが、実際の家計では、出産準備品や入院時の自己負担など、この時期にしか出ていかない支出も重なる。入ってくる額と出ていく額を、同じ期間の中で並べて見る必要がある。
半年を過ぎたあとは、支給率が下がる日と、保育園の入園を申し込む時期が近づいてくる。育休を1歳6か月や2歳まで延ばせる要件に当てはまるかどうかも、そのころには収入の見通しに直結する話になる。
いつ、どの制度からいくら入るのかという順番を先に押さえておけば、産休・育休中の半年間は、見通しの立たない空白ではなく、段差はあっても線でつながった期間として見えてくる。
次に読む
参考書籍(PR)
出生後休業支援給付金のように、両親がそろって休むことを前提にした制度が増えている。父親側の関わり方から産休・育休の分担を考えたいときに、ファザーリング・ジャパン『新しいパパの教科書』が手がかりになる。
【PR】
新しいパパの教科書 [ NPO法人ファザーリング・ジャパン ]
本記事で紹介した金額や制度の内容は、公表時点の情報を基にした一般的な説明であり、支給額を保証するものではありません。実際の支給額や要件は、加入している健康保険・雇用保険の窓口、勤務先の担当部署、ハローワークで最新の情報をご確認のうえ、各家庭の状況に応じてご判断ください。
