「産後、しんどくなったらケアが受けられますよ」。新生児訪問に来た助産師が、帰り際にそう言い添えることがある。国のガイドラインが、新生児訪問などの場で産後ケア事業を説明し、その場で利用申請を受け付けることまで想定しているからだ。
ただ、名前を聞いただけでは中身までは分からない。宿泊できるのか、通うだけなのか、費用はいくらなのか。答えられる人は、そう多くないのではないだろうか。
制度の骨格は、国のガイドラインと、実施主体である市町村の案内の両方を見ないと見えてこない。
まず原典を開いてみる

こども家庭庁が2026年3月に改定した「産前・産後サポート事業ガイドライン 産後ケア事業ガイドライン」が原典にあたる。名前のとおり2本立てで、前半のⅡ章が産前・産後サポート事業、後半のⅢ章が産後ケア事業である。
この2つは目的が違う。産前・産後サポート事業は不安や悩みを傾聴して孤立を防ぐ事業で、専門的な指導やケアは原則として含まない。専門的なケアが必要なときに紹介される先が、産後ケア事業のほうになる。
そのⅢ章を読み進めても、いくら払うのかは書かれていない。利用料は「徴収することができる」とあるだけで、額は市町村が決める。金額を知りたければ、住んでいる自治体の案内を開くしかない。
骨格は国が、値段は市町村が決めている。
Ⅲ章の1によれば、産後ケア事業は母子保健法第17条の2に基づいて市町村が行う事業である。実施の場は病院・診療所・助産所、こども家庭センターや保健センターなど自治体が設置する場所、あるいは利用者の居宅。分娩施設を退院したあと一定の期間、助産師等の看護職が中心となって母子を支援する。掲げられている目的は、母親の身体的回復と心理的な安定を促すこと、母親自身がセルフケア能力を育むこと、母子の愛着形成を促すことの3つである。
実施主体は市町村だが、趣旨を理解し適切な実施が期待できる団体に、事業の全部または一部を委託できる。単一の市町村での実施が難しい場合は、複数の市町村が連携して整備することも想定されている。
ケアの中身として並んでいるのは、母親への身体的ケア、授乳のためのケア、心理的ケア、育児の手技の指導と相談、家族との関係調整、社会資源の紹介である。身体的ケアの例には産後の腰痛や尿失禁が挙がる。骨盤底筋体操の指導や、腰に負担のかからない抱き方・授乳の姿勢といった、日常動作そのものの指導が含まれる。
制度はどう広がってきたか
ガイドライン冒頭の位置づけには、この事業がたどってきた道筋がそのまま書かれている。もともとは平成29年8月に公表され、市町村の任意事業として活用されてきた。その後、母子保健法の改正により令和3年度から市町村の努力義務となる。令和6年の子ども・子育て支援法改正では「地域子ども・子育て支援事業」に位置づけられた。
令和7年4月からは、都道府県が広域的な調整を担う。市町村の管内で委託先が確保できないときに、管内市町村を取りまとめて契約を調整するといった役割である。受け皿そのものを増やす仕組みが、後から足されてきた。
3つの型、何が違うか

実施方法は、短期入所(ショートステイ)型、通所(デイサービス)型、居宅訪問(アウトリーチ)型の3種類に分かれる。
短期入所型は、病院や助産所などに宿泊して産後ケアを受ける。分娩施設での延長入院とは区別される。利用期間は原則7日以内で、分割して利用してもよく、市町村が必要と認めれば延長できる。実施場所には助産師等の看護職を24時間体制で1名以上配置することが求められる。規模の特性を生かしたきめ細やかなケアを行う観点から、同時におおむね20人以上の妊産婦を入所させてはならない、という定めもある。
通所型は個別・集団のいずれか、または組み合わせで実施される。集団型では、保健指導や育児指導を受けながら母親同士が不安を共有できる点が挙げられている。
居宅訪問型は、助産師等が自宅に出向く。移動の負担がなくプライバシーを保ったまま受けられるため、流産や死産を経験した人、医療的ケア児のいる家庭、多胎児やきょうだいがいて外出が難しい家庭に向いている。時間の目安は市町村が定めることになっており、先進事例では1日につき3時間を確保している自治体もあった、と注記されている。
どの型でも、助産師・保健師・看護師のいずれかを常に1名以上置く。とくに出産後4か月頃までは乳房ケアを含む専門的なケアが中心になるため、原則として助産師を中心とした体制で対応する。
大阪市の場合の費用

額を知るには市町村の案内に移る。大阪市「産後ケア事業について」を例にすると、ショートステイ(宿泊型)は1泊2日・食事5回で4,250円、その後1日ごとに2,125円が加算され、通算7日(6泊7日)まで利用できる。時間は午前10時から翌日午後7時までが上限である。デイケア(通所型)は1日・食事2回で1,500円、通算7日まで。アウトリーチ(訪問型)は1回2時間程度で500円、通算5回までとなっている。
市府民税非課税世帯・生活保護世帯には減免がある。ショートステイは1泊2日2,500円(その後1日ごとに1,250円増)、デイケアは1日1,000円、アウトリーチは無料。多胎児の加算はない。1日のうちに利用できるサービスはいずれか1つ・1施設のみで、アウトリーチは1日1回まで。利用時間を短くしても料金は変わらないとも書かれている。
ガイドラインは、すべての利用者を対象に、世帯の所得の状況に応じた利用料の減免措置を講じるよう市町村に努力を求めている。大阪市の非課税世帯向けの料金表は、この求めに応じたものにあたる。額そのものは自治体ごとに決まるので、隣の市区町村の表とそろっているとは限らない。減免の有無や刻み方も、案内を開いて確かめるほかない。
実施施設の一覧は区ごとに並び、産婦人科や病院と助産院の両方が入っている。目を引くのは受入可能な月齢の列だ。1か月未満までの施設もあれば、12か月未満まで受け入れる施設もある。費用が同じでも、月齢によっては選べる先が数えるほどしかない、ということが起こりうる。
対象になるのは誰か
大阪市の案内では、対象者は大阪市に住所があり、出産後1年未満で、産後ケアを必要とする母親と乳児である。各区保健福祉センター所長が利用を適当と判断した場合も対象になる。除外されるのは、母子のいずれかが感染症疾患に罹患している場合、母親に入院加療が必要な場合、心身の不調や疾患があって医療的介入が必要な場合の3つ。ただし医師が産後ケア事業での対応が可能と判断すれば、この限りではない。
この「産後ケアを必要とする者」という書き方には経緯がある。大阪市はお知らせ欄で、令和8年4月1日から対象者を「母親の心身の不調又は育児不安等がある者」から変更し、誰でも利用できるようにしたと告知している。国のガイドラインの表現に、自治体の要件が寄せられた形だ。
ガイドラインは、初産・経産を問わず対象にすると明記している。初めての育児に不安を抱える初産婦にも、上のこどもの育児の負担が大きい経産婦にも、それぞれの負担があるという理由である。流産や死産を経験した人も対象に含まれる。この場合は乳児と同じ場でのケアに精神的負荷を感じるという指摘があり、居宅訪問型を活用するなどの配慮を行うこととされている。
対象者を見つける経路も書かれている。こども家庭センターや産婦健康診査での相談などからアセスメントを行い、支援が必要と認められる場合は、本人の利用希望を待たずに市町村の担当者から勧奨することが望ましい、という書きぶりだ。外出に困難を伴う家庭には、新生児訪問の際にその場で申請を受け付ける対応も想定されている。
出産後1年以内という期限

対象時期は「出産後1年以内」である。従来の予算事業では、出産直後から4か月頃までが基準だった。母親の身体的回復と心理的な安定を促し、専門的な指導やケアが必要な時期として、そこが区切りとされていた。
これが延びた理由を、ガイドラインは2つ挙げている。低体重児等の場合に入院期間が長引き、退院時期が出産後4か月を超えることがあること。そして、妊産婦の自殺が出産後5か月以降にも認められ、出産後1年を通じてメンタルヘルスケアの重要性が高いこと。この2点を踏まえて、母子保健法で「出産後1年以内」とされた。
市町村は、この趣旨を踏まえたうえで、地域の実情に応じて具体的な対象時期を定める。早産児や低体重児の場合は、出産予定日を基準にした修正月齢を参考にすることも考えられる、との補足もある。
申込みから利用までの流れ

利用には事前の申請が必要である。ガイドラインでは、本人または家族の申し込みを市町村が受け、実施場所と日時を調整して本人に伝える。予約や日時の調整を事業者と利用者が直接行う運用にしても差し支えない。手続きが利用者の負担にならないよう、電話やオンラインでの受付を用意するなどの配慮も求めている。
大阪市の場合、申請期限は妊娠8か月以降から、利用を希望する日の2週間前まで。申請すると「利用承認通知書」か「不承認通知書」が届き、承認された人が実施施設へ予約を入れる。予約は遅くとも利用希望日の前々日まで。承認された利用期間や回数を超えて使うと全額自己負担になるため、回数の管理は利用者側に任されている。
ケアの提供にあたっては、母親の状態やニーズをあらかじめアセスメントし、その評価に基づいた個別のケアプランを作ることが望ましいとされる。利用後は母子健康手帳の「産後ケアの記録」欄に記載が行われる。継続的な支援が必要と判断されれば、本人の同意を得て市町村へ報告する。
心理的ケアの項には、読み飛ばしにくい一文がある。精神状態を把握する際は、スクリーニングツールとあわせて食欲や疲労、睡眠、周囲のサポート状況、児への接し方などを確認する。そう手順を示したうえで、こう続く。母親の中には精神的不調があっても自ら助けを求めない場合があり、スクリーニングツールについても自ら点数を操作する場合があることに留意すること。
点数では拾えない不調もある、と原典自身が言っている。
里帰り出産の場合は

里帰り出産をしている母親も対象になる。ガイドラインは、里帰り先の市町村が支援を必要としている人を把握した場合や、住所地の市町村から提供依頼があった場合は、対象者として対応することが望ましいとしている。その際は事前に住民票のある市町村と滞在先の市町村がよく協議し連携すること、とも書かれている。
大阪市の案内はもう少し具体的だ。大阪市以外に住民票がある母親が大阪市内の実家で過ごす場合、住民票のある自治体から提供依頼と費用負担がある場合に限り、大阪市の産後ケア事業を利用できる。「まずは住民票のある自治体へご相談ください」とあり、里帰り対象者向けの依頼文の様式まで掲載されている。
手続きの起点は、滞在先ではなく住民票のある自治体になる。里帰りの日程が決まった時点で相談しておかないと、実家に着いてから動き出しても間に合わない。
迷ったときの相談先
対象になるかどうか迷う場合の窓口は、こども家庭センターや市区町村の母子保健担当である。医療的ケア児や多胎児、きょうだいがいる家庭については、利用申請と利用に際して特段の配慮をすることとガイドラインは市町村に求めている。自己判断で対象外だと決めてしまうと、その配慮にたどり着けない。
産後ケアという名前からは、何をしてくれるのかが伝わりにくい。ガイドラインが対象者を初産・経産で区別せず、市町村の側から積極的に勧奨することを望ましいとしているのは、頼っていいのか迷う時間をなくすためでもある。
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本記事で紹介した制度の内容や費用は、公表時点の情報を基にした一般的な説明であり、支給や利用を保証するものではありません。対象となるかどうかや実際の費用は、お住まいの市区町村の窓口で最新の情報をご確認のうえ、各家庭の状況に応じてご判断ください。
