共働き夫婦が死亡保障を見直す前に確かめること

「二人とも同じくらい稼いでいるのに、なんでこんなに違うんだろう」。夕食のあと、テーブルに広げた保険の更新案内を前に、妻がそう言った。夫名義の収入保障保険は死亡保険金額2,000万円、妻名義は300万円。6倍以上の差がついていた。

結婚したときに、収入の多い方を厚く、少ない方を薄く入っておけばよいと考えて決めた金額だった。当時は妻の方が時短勤務で、収入差も今よりずっと大きかった。数年が経ち、妻がフルタイムに戻り、収入も夫とほぼ同じ水準まで上がっている。その晩から、この金額のままでいいのかを二人で話し合うことになった。

加入していたのは、どちらも収入保障保険だった。毎月一定額の保険金が、契約終了年齢まで年金のように支払われるタイプで、子どもが成長するにつれて必要な保障額が減っていくという考え方に沿った商品だ。定期保険のように保険金が満期まで一定額のまま変わらない商品とは違い、時間の経過とともに受け取れる総額が目減りしていく。加入時に決めた金額が今の生活の実態に合っているかを見直す発想は、この保険の仕組みとも相性がよかった。

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二人分の保障を見直す前の制約

見直すといっても、条件を無視して決められるわけではない。住宅ローンはまだ20年以上残っている。子どもは2人とも小学校に上がる前で、教育費はこれから本格化する時期だ。どちらか一方が働けなくなった場合、もう一方の収入だけで住宅ローンと生活費をどこまで支えられるかが、最初に確かめるべき制約になる。

共働きだからといって、保障を半分ずつにすればよいという単純な話でもない。育児休業や時短勤務の期間があれば、その間の収入は下がる。看護休暇や急な呼び出しで働き方を変えざるを得なくなる可能性もある。どちらの収入がどれだけ生活費に組み込まれているかを先に整理しないと、削ってよい金額の見当がつかない。

実際に家計簿を1年分見返してみると、住宅ローンと保育料は夫の口座から、食費と光熱費は妻の口座から引き落とされる分担になっていた。金額だけを見ると夫側の負担が大きい。ただ、保育料は妻の収入があるからこそ払える費用でもある。どちらか一方が欠けた場合、単純に「その人の口座からの支出が消える」のではなく、家計全体の組み方を作り直す必要が出てくる。

そもそも、保障額はいつ、何を根拠に決めただろうか。結婚時の勢いだけで金額を決めていたことに、まず気づかされた。

遺族年金は共働きでも受け取れるのか

見直しの前提として、公的な遺族年金がいくら出るのかを確かめることにした。日本年金機構の年金用語集によると、遺族年金の対象になるのは「死亡した方に生計を維持されていた」遺族で、その要件は2つある。ひとつは死亡した人と生計を同じくしていたこと。もうひとつは、収入要件を満たしていることだ。

ここを最初に読み違えていた。前年の収入850万円未満、または所得655万5千円未満という基準は、亡くなった人ではなく、年金を受け取る側の遺族にかかる条件である。つまりこの収入要件を満たさなければ、亡くなった側がどれだけ厚生年金を納めていても遺族年金は受け取れない。基準額の前後にいる場合は認定の細かい条件がかかわるため、年金事務所で確かめておきたい。共働きで保障を考えるときに、まず確かめるのはここになる。

もうひとつ確かめておきたいのが、加入している年金の種類だ。会社員や公務員は厚生年金に加入しているため、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方が対象になる。自営業やフリーランスで国民年金だけに加入している場合は、遺族基礎年金のみが対象で、子どもが18歳の年度末を迎えると受け取れる年金がなくなる。共働きといっても、双方の働き方によって受け取れる年金の種類が変わってくる点は見落としやすい。

肝心の金額はどうか。遺族基礎年金は、令和8年4月分から年額847,300円。子の加算額は1人目・2人目が各243,800円、3人目以降が各81,300円つく。子ども2人の家庭なら、基礎年金だけで年間1,334,900円になる。

子の人数別の遺族基礎年金の年額を示す横棒グラフ
遺族基礎年金の年金額(子の人数別・令和8年4月分から)※日本年金機構の公表額を基に筆者が試算

遺族厚生年金は、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3にあたる。在職中の死亡などの場合は、厚生年金の被保険者期間が300月(25年)未満でも300月とみなして計算するため、加入期間の短い若い世代でも一定の額が確保される。加えて、40歳から65歳になるまでの間、条件を満たす妻には中高齢寡婦加算として年額635,500円が上乗せされる。子どもが成長して遺族基礎年金の対象から外れた後の空白期間を、この加算が埋める。

遺族厚生年金の計算方法と中高齢寡婦加算を示す概念図
遺族厚生年金と中高齢寡婦加算のしくみ ※概念図(実測データではありません)

共働きなら遺族年金は出ない。話し合いを始める前は、二人ともなんとなくそう思い込んでいた。年収の壁は意識していても、遺族年金の壁は見たことがなかった。

生保文化センター統計に見る男女差

生命保険文化センター「生活保障に関する調査」(2025年度)によると、生命保険の加入率は全体で80.0%、男性78.2%、女性81.5%とほぼ差がない。

ところが、加入している人の普通死亡保険金額の平均は、男性1,261万円に対して女性610万円だった。2倍以上の開きがある。加入率にはほとんど差がないのに、金額には大きな差がついている。

生命保険の普通死亡保険金額の平均を男女別に示す横棒グラフ
生命保険の普通死亡保険金額の平均(加入している人・男女別) ※生命保険文化センター「生活保障に関する調査」を基に作成

分布を見ると、男女とも「200万円以上500万円未満」の層が最も多い。次いで「500万円以上1,000万円未満」が続く点も共通している。違いが出るのはその先だ。男性は「1,000万円以上1,500万円未満」が3番目に多いのに対し、女性は「200万円未満」が3番目に多い。テーブルに広げた更新案内と同じ非対称が、統計にもそのまま表れていた。

同じ調査では、死亡保障に対する経済的準備の充足感を尋ねている。「十分足りている」6.9%と「どちらかといえば足りている」27.9%を合計した「充足感あり」は34.7%。「どちらかといえば足りない」38.6%と「まったく足りない」15.9%を合計した「充足感なし」は54.6%。合計値が単純な足し算とわずかにずれるのは小数点以下の端数処理によるもので、調査側もその旨を注記している。加入率にほとんど差がないのに保障額には大きな差があり、しかも半数以上が不足を感じている。この調査は性別ごとの回答をまとめたもので、共働き世帯だけを取り出した数字ではない。それでも、平均加入金額の差がこれだけ大きい以上、共働き世帯の中にも同じ偏りを抱えた家庭は少なくないはずだ。

死亡保障に対する経済的準備の充足感の内訳を示す横棒グラフ
死亡保障に対する経済的準備の充足感 ※生命保険文化センター「生活保障に関する調査」を基に作成

男性の保障が手厚くなりやすい背景には、収入の多い方を守るという発想に加えて、育児休業や時短勤務による収入減が女性側に偏ってきた歴史もあるのだろう。ただ、この統計はあくまで全体の平均であり、個々の家庭の収入構成を映すものではない。自分たちの数字がどちらの型に近いのかは、平均ではなく手元の更新案内を見て初めて分かった。

仮の数字で試算してみる

仮に、亡くなった側の老齢厚生年金の報酬比例部分が年80万円だったとする。遺族厚生年金はその4分の3にあたる年60万円になる。子ども2人がいる家庭であれば、遺族基礎年金の1,334,900円と合わせて、年間およそ193万円が公的年金として入る。

40歳未満の妻であれば中高齢寡婦加算の対象外だが、40歳を超えれば、この金額にさらに635,500円が加わる期間も出てくる。年齢によって受け取れる総額が変わる点は、見落としやすい。

子2人の家庭を想定した遺族年金の受取額の内訳を示す横棒グラフ
遺族年金の受取イメージ(子2人・報酬比例部分を年80万円と仮定)※日本年金機構の公表額と本文の仮定を基に筆者が試算

この金額と、住宅ローンの返済額、教育費、日々の生活費を並べてみる。公的年金だけで足りない部分を保険で埋めるという順番で考え直すことにした。収入が多い方の保障を厚くするという発想自体は変えていない。ただし、収入差が縮まった分だけ、少ない方の保障も引き上げる方向で見直す。

もうひとつ確かめておきたかったのは、妻が亡くなった場合の試算だ。中高齢寡婦加算は妻が受け取る遺族厚生年金に上乗せされる仕組みで、夫が受け取る側になる場合は対象にならない。夫側の制約はそれだけではない。日本年金機構のページには、子のない夫が遺族厚生年金を受け取れるのは55歳以上である方に限られ、受給開始は60歳からだとも書かれている。子どもが18歳の年度末を過ぎた後に妻を亡くした場合、夫の側には空白が生まれることになる。

同じ子ども2人・同じ報酬比例部分の条件でも、夫婦のどちらが亡くなるかによって、受け取れる公的年金の総額と受け取れる期間が変わる。この非対称に気づかないまま保障額を決めていたら、妻側の保障だけを軽く見積もったままになるところだった。

判断基準を並べ、決めた理由

最終的に基準にしたのは、次の4点だった。優先順位はこの順で置いた。

ひとつ目は、残された側が生計維持の収入要件を満たすかどうか。年収850万円を超えていれば、遺族年金がない前提で保障額を組み直す必要がある。2つ目は、どちらが欠けても今の働き方を続けられるかどうかだ。時短勤務のままでは収入が戻らない期間もあるため、その間の生活費をどちらの保障で埋めるかを先に決めておきたい。3つ目は住宅ローンと教育費の残り期間の長さ。ローンの残高は減っていくが、教育費はこれから増えていく局面にある。4つ目は、再就職のしやすさや資格の有無だ。同じ収入でも、再就職までにかかる期間が違えば、必要な保障額も変わってくる。

共働き夫婦が死亡保障を検討する際の4つの判断基準の優先順位を示す概念図
共働き夫婦が死亡保障を考えるときの判断基準の並べ方 ※概念図(実測データではありません)

この基準に照らすと、収入差が縮まった今、6倍以上という保障額の差は大きすぎると判断した。妻の保障額を引き上げ、夫の保障額はやや抑える方向で見直しの相談を進めることにした。実際の手続きは、加入している保険会社のコールセンターに連絡し、現在の契約内容の一覧を取り寄せることから始めた。証券番号を手元に用意しておくと話が早い。後田亨・永田宏の「いらない保険」は、保険の必要性を条件から詰めていく構成で、こうした見直しの順番を考えるときの下敷きになる。

この配分が本当に正しいかどうかは、まだ分からない。二人分の保障額を並べて、公的年金の額まで確かめたうえで決めたという事実だけは、次に見直すときの土台になるはずだ。

住宅ローンの残高は毎年減っていく。子どもが独立すれば、必要な保障額も変わる。転職や独立で働き方そのものが変わることもある。次に見直すタイミングは、住宅ローンの繰り上げ返済を検討するときか、子どもが中学校に上がるときのどちらか早い方に決めた。

保障額の差は、いつの間にか固定観念になっていないだろうか。妻の一言がなければ、更新案内は金額を眺めるだけで引き出しに戻っていた。次に届いたときは、数字の根拠まで確かめる。

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後田亨・永田宏「いらない保険」は、保険の要否を条件から詰めていく構成で、加入額を見直す順番を考えるときの下敷きになる。

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本記事で紹介した年金額や統計は、日本年金機構および生命保険文化センターが公表している資料に基づく参考情報であり、特定の保険商品や保障額を推奨するものではない。遺族年金の受給要件や金額は家庭の状況によって異なるため、実際の見直しにあたっては年金事務所や保険会社への確認をもとに、各家庭で判断してほしい。

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この記事を書いた人

4人家族で妻、息子、娘で関西に新築建てて住んでいます。日々、家族の要望に応えられるように未来に関係しそうなことやお金に関すること調べてこっそり、生活に取り入れています。

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