市役所の子育て支援窓口に、児童手当の現況届を出しに来た夫婦がいる。壁に貼られたA4のポスターには「多子世帯の保育料は軽減されます」という見出しがあり、小さな文字で条件が並ぶ。上の子はまだ2歳。二人目を考えるなら、お金の面を早めに整理しておきたい。順番を待つ間、夫婦はポスターの文字を目で追う。
窓口で受け取った案内チラシには、制度の説明はあっても、支給額が具体的にいくらになるかまでは書かれていない。二人目を考えるときの迷いは、産むか産まないかという一つの分かれ道ではなく、児童手当・保育料・出産費用という小さな条件がいくつも積み重なってできている。
二人目という言葉は、思ったより早く日常に紛れ込んでくる。
二人目を考え始めたきっかけ
上の子が2歳を過ぎたころから、双方の実家や友人から「そろそろ二人目は」と聞かれる回数が増える。保育園の送り迎えで顔を合わせる別の家庭が、二人目の妊娠を報告する場面に出くわすこともある。きっかけは家庭ごとに違っても、頭に浮かぶ制約はおおむね共通している。年齢のことを考えると先送りしにくい一方、収入や保育の受け皿には限りがある。
制約を並べると、年齢という時間の制約、保育園に二人を同時に預けられるかという受け皿の制約、そして毎月の家計と出産・育休中の一時的な収入減という資金の制約に分かれる。三つは互いに重なり合っていて、どれか一つだけを見て決められるものではない。
このうち資金の制約は、公的な支援の中身を具体的な数字で確かめれば、見通しの立て方が変わる。二人目が生まれたとき、家計にどんな支えが増え、どんな支出が増えるのか。窓口で受け取ったチラシを手がかりに、制度を一つずつ確認していく。
確認する制度は三つある。児童手当、保育料の多子軽減、そして出産育児一時金だ。
児童手当は二人目でいくら増えるか
児童手当は、2024年10月分から制度が拡充されている。こども家庭庁が公表している支給額の一覧によると、児童1人当たりの月額は3歳未満が15,000円、3歳以上高校生年代までが10,000円で、このうち「第3子以降」に当たる子は年齢にかかわらず月額30,000円になる。

見落としやすいのが、この「第3子以降」の数え方だ。原典は「児童及び児童の兄姉等のうち、年齢が上の子から数えて3人目以降の子」と定めている。ここでいう兄姉等とは、18歳に達する日以後の最初の3月31日を過ぎてから22歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあって、親等に経済的負担のある子を指す。つまり大学生年代の上の子も人数には入るが、22歳年度末を越えると外れる。二人目が生まれた時点で子どもが2人であれば、加算の対象にはならない。二人目に支給されるのは年齢に応じた15,000円か10,000円で、一人目と同じ水準になる。
所得制限は2024年10月の改正で撤廃され、それまで所得上限限度額を超えて受給できなかった世帯にも支給が及ぶようになった。支給は偶数月に前2か月分がまとめて振り込まれる。二人目が生まれたときにまず確かめておきたいのは「増額の有無」ではなく、「今の子と同じ水準で確実に支給が続くか」の方だ。
保育料は二人目からどう変わるか
児童手当が「一人目と同じ水準」にとどまるのに対し、保育料には二人目からはっきり効いてくる仕組みがある。こども家庭庁の幼児教育・保育の無償化の説明によれば、3歳から5歳までの利用料はすでに全世帯で無償化されている。金額が動くのは0歳から2歳までのクラスで、住民税非課税世帯は無償、それ以外の世帯は原則として利用料がかかる。

0歳から2歳の負担軽減は、保育所等を利用する最年長の子を第1子と数え、第2子は半額、第3子以降は無償になる、という数え方で行われる。年収360万円未満相当の世帯は、この第1子の年齢を問わない。逆にいえば、年収がそれを超える世帯では、上の子が保育所等に在籍していない時期に二人目が0〜2歳の枠に入ると、軽減の対象から外れる組み合わせが起こり得る。
多子軽減は「保育所等を利用する最年長の子」を基準にしているため、上の子が卒園していれば、二人目は単独の第1子として扱われる。二人目を考えるタイミングと、上の子の卒園時期の間隔は、保育料の見通しに直接響く。
出産育児一時金は人数で変わるか
もう一つ確かめておきたいのが、出産そのものにかかる一時的な費用だ。協会けんぽの出産育児一時金の説明によれば、2023年4月1日以降の出産では、産科医療補償制度に加入する医療機関で在胎週数22週以降に出産した場合、1児につき50万円が支給される。加入機関でも22週に達しなかった出産と、産科医療補償制度に加入していない機関での出産は、1児につき48.8万円になる。

この金額は、子が一人目か二人目かによって変わらない。双子など多胎の場合は胎児数分だけ支給されるが、単胎であれば、二人目の出産でも支給額は一人目と同じ50万円のままだ。出産費用が50万円を上回れば差額を窓口で支払い、下回れば差額を申請して受け取る仕組みも変わらない。
二人目の妊娠・出産で動くのは、支給額そのものではなく、費用の内訳の方だ。上の子のときに使った分娩施設や入院日数の記録が残っていれば、実際にかかった費用の見当をつけやすい。産科医療補償制度の対象分娩かどうかは領収・明細書に明記されるため、出産予定の医療機関に確認しておけば、一時金だけで足りるかどうかを先に見積もれる。
一人目のときに直接支払制度を使っていれば、窓口で大きな額を立て替える負担がないことも分かっている。仕組みを一度経験している分、二人目では手続きの段取りを組みやすいという側面もある。
判断基準をどう並べたか
制度の中身が分かっても、家庭ごとに置く基準は一つではない。自治体の窓口は制度の内容を説明する場所であって、産むかどうかの判断まで示してくれる場所ではない。二人目を考えるとき、家計のどこを最初に確かめればよいのだろうか。

基準の置き方は家庭ごとに違ってよいが、並べる軸はおおむね共通している。毎月の固定費に対して児童手当と保育料の増減がどう効くかという「日々の収支」の軸、産休・育休中の収入減を貯蓄でどこまで支えられるかという「一時的な資金」の軸、そして保育園や学童の受け皿に二人を同時に預けられるかという「預け先」の軸だ。この三つを並べ、どれを優先するかを先に決めておくと、あとの評価がぶれにくくなる。
軸は三つ。優先順位は家庭の数だけある。
優先順位のつけ方に正解はない。収入が安定していて預け先のめども立っているなら「預け先」の軸を後回しにできるし、保活の見通しが立たない地域なら、そちらを最優先にせざるを得ない。基準そのものを先に言葉にしておくことが、あとになって「なんとなく決めた」と感じないための備えになる。
職場に育休の前例が少ない場合は、「一時的な資金」の軸をより重く見ることになる。育休中の収入は、給付金があっても休業前の水準そのものではないため、復帰までの数か月の資金繰りを先に固めておきたい。実家が近く一時的に頼れるなら、資金の軸よりも預け先の軸が先に来ることもある。
基準に選択肢を照らして見えたこと
並べた基準に、実際の選択肢を当ててみる。二人目を今のタイミングで考える場合と、上の子の卒園を待ってから考える場合とでは、保育料の多子軽減が使えるかどうかが分かれる。育休を取るタイミングも、職場の繁忙期や引き継ぎのしやすさによって前後する。

制度の支えと、増える支出。差し引きでどちらが大きいのか。答えは家庭の収入水準や保育料の階層区分によって動くため、一律には出ない。それでも、児童手当が「一人目と同じ水準」にとどまること、保育料の多子軽減には年齢の組み合わせという条件があること、出産一時金は人数で変わらないことの三点は、多くの家庭に共通する前提として押さえておける。
基準に照らして選択肢を評価した結果、「今の家計なら支えられる」という結論に至ることもあれば、「あと1年、貯蓄を積み増してから」という結論に至ることもある。どちらも、制度の中身を確かめたうえでの判断であれば、後から振り返ったときに納得しやすい。
決めたあとの家計の実際
二人目が生まれたあと、家計に実際に反映されるのは、児童手当の増額分と保育料の軽減分だ。上の子が3歳、二人目が0歳という組み合わせを考える。上の子には月10,000円、二人目には月15,000円が支給され、世帯合計は月額25,000円になる。二人目が生まれる前の10,000円と比べると、増える額は月15,000円にとどまる。支出の増加分をすべて相殺できる額ではない。

保育料は、二人目が0〜2歳のクラスに入り、上の子が保育所等に在籍している間は半額になる。上の子が卒園したあとは、二人目が単独の第1子として扱われ、軽減は外れる。窓口のポスターが小さな文字で並べていた条件は、つまりこの「在籍が重なっている間だけ効く」という一点に尽きる。
効く期間は、思ったより短い。
上の子と二人目の年齢差が開くほど、二人が同時に0〜2歳・在園という条件を満たす期間は短くなる。年齢差が近いほど、多子軽減が効く期間は長くなる代わりに、同時に二人分の保育料がかかる期間そのものも長くなる。どちらが家計にとって軽いかは、月々の保育料の階層区分と、貯蓄のペースしだいだ。
見送るという判断も基準のうち
ここまで並べた制度は、いずれも「産む」ことを前提にした支えだ。ただし、基準に照らした結果、今は見送るという判断にたどり着く家庭もある。児童手当や保育料の軽減があっても、保育の受け皿や仕事の見通しが立たなければ、制度だけで背中を押されるものではない。
窓口のポスターは、支えの中身を示すだけで、決断そのものを示してはくれない。二人目を考え始めたきっかけがどこにあったとしても、制度を確かめたうえで出した答えであれば、産むという判断も、今は見送るという判断も、同じように筋が通っている。
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家計の数字を並べて判断の材料にする手順そのものを扱った本。二人目の見通しを立てる前に、毎月の収支の把握の仕方を整えておきたいときの一冊。
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ここで挙げた制度や試算は、二人目を考えるときに家計で確かめる項目の一例であり、内容の正確性を保証するものではない。支給額や軽減の条件は自治体や年度によって変わるため、実際の手続きの前には最新の公表情報を確認し、産む・産まないの判断はそれぞれの家庭でご判断いただきたい。
