妊娠検査薬に線が浮かぶ。うれしさと同時に、「まず何をすればいい」という戸惑いが来る。病院にはいつ行くのか、役所への届け出は要るのか、お金の手続きは何があるのか。検索すると情報はばらばらで、結局スマホのメモに箇条書きを作りながら、夫婦で確認し合うことになる。
この記事では、妊娠がわかってから出産までのお金の手続きを、公的な資料で確認できる範囲に絞って順番どおりに並べる。受け取れる金額、申請の時期、そして担当を夫婦でどう分けるかまでを1枚にまとめた。
手続きは4つのタイミングで起きる
心拍の確認、妊娠届の提出、出産予定日の8週間前、出産。お金の手続きが発生するのはこの4回だ。全体を先に見ておくと、案内が届いたときに慌てない。
順番は飛ばせない。妊娠届がなければ受診券も給付も始まらない。

①まず産婦人科で心拍確認
市販の検査薬の陽性だけでは、行政の手続きは始められない。医師が胎児の心拍を確認して、はじめて「妊娠」として扱われる。心拍が確認できる時期には個人差があるので、いつ受診するかは医療機関の案内に従う。
②妊娠届を出す日に3つ受け取る
心拍が確認できたら、住民票のある市区町村の窓口へ妊娠届を出す。窓口は子育て支援課や保健センターで、名称は自治体で違う。ここで受け取るのは母子健康手帳だけではない。妊婦健診の受診券と、支援給付の申請案内が一緒に来る。
持ち物は自治体で少し違うが、共通するのは4つ。マイナンバーがわかるもの、本人確認書類、給付の振込先になる妊婦本人名義の口座がわかるもの、医療機関で書いてもらう妊娠届の用紙だ。妊娠届の用紙を医療機関が出さず、窓口で書く自治体もある。出産予定日と受診した医療機関の名前は聞かれるので、母子手帳をもらう前でもメモして持っていく。
受診券は、健診の費用を市町村が負担するためのものだ。こども家庭庁の妊婦健診に関する取組みでは、妊婦1人につき出産までに14回程度の健診を行い、その費用を市町村が負担するのが望ましい基準とされている。受診券は交付前に受けた健診には使えない。届け出が遅れるほど、自費で受ける健診が増える。
妊婦のための支援給付は合計10万円
2025年4月に始まった妊婦のための支援給付は、子ども1人につき合計10万円を受け取れる国の制度だ。妊娠時に5万円、出産前後に胎児の数×5万円の2回に分けて支給される。双子なら2回目が10万円で合計15万円、三つ子なら合計20万円。所得制限はなく、住民票のある市区町村に妊娠届を出した妊婦が対象になる。

1回目を受け取るには「妊婦給付認定申請」が要る。多くの自治体では妊娠届と同じ日に案内があり、その場でまとめて手続きできる。受け取り方は現金の口座振込のほか、電子クーポンや育児用品と交換できるギフトにしている自治体もある。受給者は妊婦本人で、父親や祖父母は対象にならない。振込先も妊婦本人名義の口座が基本だ。
この給付は、2025年3月まであった「出産・子育て応援交付金事業」を法律に基づく制度に位置づけ直したもので、妊娠時5万円・出産前後5万円という水準は以前から引き継がれている。保健師や助産師との面談とセットで案内されることが多く、お金の手続きと同時に、育児の相談窓口が1つできる。
2回目は予定日の8週間前から
2回目の給付は、出産予定日の8週間前の日以降に「胎児の数の届出」をして申請する。1回目とは別の手続きなので、案内が届いたら忘れずに出す。申請してすぐ振り込まれるわけではなく、自治体の審査を経てからになる。出産準備の予算を組むときは、振込まで数週間から数か月かかる前提にしておく。
あなたの家では、この2回目の申請日をカレンダーに入れてあるだろうか。予定日の8週間前は妊娠32週。里帰りの準備や入院の支度が重なる時期で、いちばん忘れやすい。
里帰り・引っ越しのときの申請先
支援給付は住民票のある市区町村から支給されるので、里帰り先の自治体では申請できない。住民票を移していないなら、郵送やオンラインで住民票のある自治体宛てに書類を送る。引っ越しで住民票を移した場合は、転入前の自治体で1回目を受け取り済みなら転入先で2回目のみ、未申請なら転入先で1回目から申請する。引っ越しの予定がある人は、案内が届いた時点で窓口に確認しておく。里帰り出産そのものの段取りは里帰り出産にかかるお金と段取りにまとめた。
出産後は出産育児一時金50万円
出産そのものの費用には、加入している健康保険から出産育児一時金が支給される。厚生労働省の出産育児一時金等についてによれば、金額は1児につき原則50万円。この50万円には産科医療補償制度の掛金1万2,000円が含まれ、制度に加入していない医療機関で出産した場合は48万8,000円になる。会社員なら協会けんぽか健康保険組合、自営業なら国民健康保険が窓口だ。

多くの医療機関では、一時金を病院が健康保険へ直接請求する「直接支払制度」が使える。退院時に支払うのは、出産費用から50万円を引いた差額だけになる。出産費用が50万円で足りるかどうかは出産費用の実際: 出産育児一時金で足りるかで、実際の費用と比べている。
妊娠中の急な入院にも備えておく。切迫早産などで入院が長引くと、窓口での支払いが高額になる。健康保険の限度額適用認定証を事前に取っておくか、マイナ保険証を使って限度額の適用を受ければ、窓口負担は自己負担の上限までで済む。どちらが使えるかは、加入している健康保険と受診する病院で確認する。
医療費控除の記録は初回の健診から
妊婦健診や検査で自己負担した金額、通院の交通費は、確定申告の医療費控除の対象になる。領収書は捨てずに残し、通院日と交通費をメモしておく。家族の医療費は世帯で合算できるので、出産の年は他の家族の医療費も同じ封筒に入れる。

電車やバスの通院費は領収書が出ない。日付と区間と金額を、家計簿アプリのメモ欄にその日のうちに残す。出産費用の領収書も取っておくが、集計のときは一時金で補填された分を引く。控除の対象は、実際に負担した額だけだ。世帯の医療費が年10万円(所得200万円未満なら所得の5%)を超えた分が控除の対象になるので、出産の年は超えやすい。
会社員は伝える時期も手続きの一部
産前産後休業と育児休業の手続きは、会社の担当部署を通す。体調が安定してきた時期に早めに相談しておくと、後の手続きが滞らない。産休中の出産手当金、育休中の育児休業給付金は、いずれも会社経由で申請するものが多く、会社側にも準備の時間が要る。
金額の目安も先に知っておく。出産手当金は、健康保険に加入している本人が産前42日・産後56日の休業中に受け取れるもので、1日あたり標準報酬日額の3分の2。月給30万円なら日額1万円で、1日あたり約6,700円、98日分でおよそ65万円になる。育児休業給付金は雇用保険から出て、休業開始から180日までは賃金の67%、それ以降は50%。2025年4月からは、両親がともに14日以上の育児休業を取ると、最大28日間は手取りで賃金の8割相当になる出生後休業支援給付が加わった。
これらは休業に入ってから申請するものだが、受け取れる額を妊娠中に計算しておくと、収入が減る期間の家計を組める。産休に入る月の給与、休業中の社会保険料の免除、住民税の支払い方法は、人事に聞けばその場で答えが出る。
受診券でカバーされない出費
受診券があっても、妊婦健診の自己負担はゼロにならない。券の対象外の検査や、券の金額を超えた分は自費になる。1回あたり数千円の自己負担が続く家庭は多く、妊娠中の通院費は合計で数万円になる。ここにマタニティ用品と、入院の準備品が乗る。支援給付の1回目5万円は、この時期の出費に当てるのが現実的だ。
担当を決めてから始める
手続きは妊婦本人が窓口へ行くものと、夫が代わりに動けるものに分かれる。妊娠届は本人が出すのが基本だが、自治体によっては代理提出を認めている。給付の申請書類の管理、職場への相談、領収書の封筒は、どちらが持つかを最初に決めておく。平日に窓口へ行けるのはどちらか、書類を管理するのはどちらか。この2つを決めておくだけで、体調が優れない時期でも手続きが止まらない。話し合いの進め方は家族会議のやり方に書いた。

窓口で妊娠届を出すときは、母子手帳と受診券を受け取って終わりにしない。支援給付の案内が同時にもらえるか、面談の予約が必要か、歯科健診の受診券やマタニティマークなど他にもらえるものがあるかを、その場で聞く。事前に電話で持ち物を確認しておくと、二度手間にならない。
次に読む
- 出産費用の実際: 出産育児一時金で足りるか ― 50万円と実際の出産費用の差
- 児童手当と乳幼児医療費助成、申請もれを防ぐ段取り ― 出産後15日以内に始まる次の手続き
参考書籍(PR)
妊娠期の手続きと分担を本で補うなら、次の2冊がある。制度の最新の内容は、必ず自治体の案内で確かめてほしい。
(PR)新しいパパの教科書 [ NPO法人ファザーリング・ジャパン ]
本文で触れた1冊。産前産後にパパ側が担える手続きや家事の範囲が具体的に書かれていて、分担を決める話し合いのたたき台にしやすい。
(PR)誰も教えてくれないお金の話 (Sanctuary books) [ うだひろえ ]
家計の基本をコミックエッセイで追える1冊として知られる。出産前後で支出が動く時期に、家計全体を一度見直したい人向け。
注意事項
制度の名称や金額、申請方法は自治体や加入する健康保険によって異なる場合があります。本記事の内容は2026年9月時点の公表情報にもとづく一般的な説明であり、給付を保証するものではありません。正確な手続きは、お住まいの市区町村や加入している健康保険の窓口でご自身で確認してください。
