産院の窓口で渡される入院・退院の案内一式に、「ご自宅で準備するもの」という一覧表が挟まっていることがある。ベビーベッド、チャイルドシート、抱っこ紐——品目は並んでいても、価格の記載はない。渡された紙をめくりながら、これを全部買うのか、それとも別の手段があるのか、答えの出ないまま持ち帰ることになる。
ベビー用品の入手方法は、購入だけではない。レンタル事業者を使う方法もある。自治体や地域の制度を使って、無償で譲り受ける方法もある。ここでは特に出費と手間の差が大きい、ベビーベッドとチャイルドシートの二品目に絞る。買う・借りる・もらうの三通りを、同じ条件で並べてみる。
比べる条件を決める
比較の対象は、ベビーベッド(0か月〜1歳前後の使用を想定)とチャイルドシート(乳児用〜幼児用、0〜4歳ごろの使用を想定)の二品目である。価格は、家事代行・レンタル大手のダスキンが運営する「かしてネット」の公式サイトに掲載されている実勢価格を使う。無償で入手する方法については、都道府県の交通安全協会とさいたま市の公式サイトで確認できる制度を例に取る。抱っこ紐やベビーカーは対象から外した。これらは中古流通が特に活発な一方、公式サイトで購入・レンタルの価格を同条件で並べられる情報が乏しいためである。

三通りを比べる軸は三つに絞った。総額、入手までの猶予、返却・処分の手間である。総額は購入額とレンタル料金の差、猶予は申し込みから使える状態になるまでの日数を指す。安さだけを見て決めると、後の二つで想定外の負担が出ることがある。まずは総額から、品目ごとに見ていく。
ベビーベッドの購入とレンタル
かしてネット公式サイトが示す比較例では、ベビーベッドを購入した場合の価格は約48,000円。同じ用途で6か月レンタルした場合は8,712円(税込)からとなり、差額はおよそ40,000円になる(同社公式サイト、2026年9月5日確認)。ここでいう約48,000円は、同社が「レンタルしている国産ベビーベッドのメーカー希望小売価格の平均価格」と注記している数字で、店頭の実売価格とは異なる。基本料金は1か月2,420円〜3,520円(税込)。6か月まとめ料金は8,712円〜12,672円(税込)。機種によって幅がある。

寝具は扱いが分かれる。ベビー布団のセットは公式サイトに21,560円〜25,410円(税込)という価格帯で並んでいるが、こちらは販売のみで、レンタルの取り扱いはない。一方でマットレスは単品レンタルの対象になっており、基本料金は1,650円(税込)からとなっている。本体だけ借りて寝具は買う、という組み合わせになる。
レンタルの利点は、使わなくなった時点で返却すればよいことだ。置き場所に困らない。里帰り出産などで一時的にしか使わない家庭には向く。一方で、返却時の清掃状態や破損についての規定は事業者ごとに異なる。申し込み前に確認しておいたほうがいい。購入の場合は、使い終えたあとに譲渡するか処分するかという判断が別途発生する。
チャイルドシートの購入とレンタル
同じ公式サイトにチャイルドシートの比較例もある。条件は「9か月10日で乗り降りするときにだけ使用する場合」。この条件での購入は38,280円。レンタルは5,940円である。差額は32,340円になる(同社公式サイト、2026年9月5日確認。特定機種での比較例)。基本料金は1か月3,520円〜13,200円(税込)。9か月10日利用時の料金は3,168円〜11,880円(税込)という幅で示されている。ISOFIX対応の機種は基本料金6,600円(税込)とやや高い。シートベルト固定式は3,520円〜5,280円(税込)のものが並ぶ。

チャイルドシートは道路交通法で6歳未満の着用が義務づけられている。対象年齢や体格に合わないものを使うと、本来の効果が発揮されない。レンタル事業者は複数のメーカー品を取り扱っており、体格に合わせて機種を変更しやすいという利点がある。子どもの成長は個人差が大きい。想定より早く座席を替える必要が出ることもある。そのたびに買い替えるより、レンタルのほうが柔軟に対応できる場面はありそうだ。
ただし取り付けは自分でやることになる。同社は安全上の理由から取り付け作業を行っておらず、車種が適合するかどうかの確認も利用者側の仕事だと明記している。
使用期間別に総額を試算する
ここまでの料金を使って、使用期間ごとの総額を試算してみる。ベビーベッドの基本料金(1か月2,420円)を基準に置く。公式サイトには「3か月以上の継続利用でレンタル料金20%OFF以上」「6か月以上は40%OFF」という割引の目安が示されている。これに沿って計算すると、3か月では2,420円×3か月×0.8で5,808円になる。6か月は公式の実例どおり8,712円である。この2点だけでも、購入額の約48,000円とはまだ開きが大きい。

12か月まで延ばすとどうなるか。公式サイトには6か月を超えるレンタル期間の割引率が明示されていないため、ここから先は仮の計算になる。6か月分の料金をそのまま2倍にすると17,424円。購入額の約48,000円とは、それでも3万円以上の開きがある。ただしこれは、6か月時点の割引がそのまま続くと仮定した目安にすぎない。延長時の料金体系は公表されていないので、1年を超えて使う可能性があるなら、事業者に直接、長期利用時の料金を確認したほうが確実だ。
無料で借りる・もらう制度
チャイルドシートには、交通安全協会による無料貸出制度もある。例えば広島県交通安全協会では、会員向けに14日以内の短期無料貸出しを行っている。原則は会員一人につき1台。貸出場所ごとに保有台数が決まっており、乳幼児用は少ない地区で2台、県協会の窓口で27台という規模だ。ゴールデンウィークや盆、年末年始は予約が集中する。早めの問い合わせが呼びかけられている(広島県交通安全協会公式サイト、2026年9月5日確認)。案内では未入会でも入会と同時に借りられるとされているが、地区の窓口はその地区の会員を優先すると明記している。実施の有無や条件は都道府県・市区町村ごとに異なるので、住んでいる地域の協会に当たるところから始めることになる。
家具や不用品を無償で譲り受ける仕組みを、自治体が後押ししている例もある。さいたま市は2020年2月27日、地域情報サイト「ジモティー」を運営する株式会社ジモティーとリユース活動の連携協定を締結した。処分費用をかけずに、地元で家具などの引き取り手を探せる仕組みとして案内されている(さいたま市公式サイト、2025年7月22日更新ページを2026年9月5日確認)。ベビーベッドやチャイルドシートも対象になり得る。ただし個人間の取引である以上、相手の情報を十分確認しないまま連絡先を交換するのは避けたほうがいい。対面での受け渡し場所を人目のない所にするのも避けたい。同ページにも安全な取引のための注意点が具体的に挙げられている。
思っていた逆転は起きなかった
三通りを並べる前は、期間が延びればどこかでレンタルが購入額を追い越すだろうと考えていた。ところが、この二品目に関しては公式サイトの割引率が効いて、そう単純には逆転しない。1〜2か月程度の短期利用なら、無料貸出や無償譲渡で費用をゼロに近づけられる可能性がある。半年前後なら、レンタルの総額は購入額の5分の1程度にとどまる。12か月まで延ばしても、割引が続くという仮定の下では3万円以上の差が残る計算だった。では、レンタルが不利になる境目はどこにあるのだろうか。少なくとも1年以内には、見当たらなかった。
もっとも、判断材料は金額だけではない。想定と違ったのは、入手までの猶予のほうだった。購入とレンタルは、在庫さえあれば数日で手元に届く。ただしレンタルは、繁忙期の在庫確保のために2〜3週間前からの予約が勧められている。無料貸出はさらに予約制で、2か月前から受け付ける地区が多い。無償譲渡にいたっては、相手が見つかるかどうか自体が読めない。出産予定日が迫っているときに「もらう」だけを当てにするのは、リスクの高い賭けになる。
期限から逆算する
ここまでの条件を踏まえると、判断の起点は「どれくらいの期間使うか」ではなく、「いつまでに手元に要るか」に置いたほうがよさそうだ。金額の順位が期間で入れ替わりにくい以上、差がつくのは猶予の側になる。出産予定日まで2か月以上あり、予約や譲渡先探しに動けるなら、無料貸出や無償譲渡から当たる価値がある。数週間の猶予しかないなら、レンタルの予約が現実的な線だ。予定日が目前で、かつ長く使う見込みがあるなら、在庫のある店舗で購入するのが確実になる。
どの方法にも一長一短がある。安さだけで選ぶと、予約の埋まり具合や譲り手の不在でつまずく。逆に、猶予がないからと反射的に買うと、数か月しか使わないものに数万円を払うことになる。手元に要る日から逆算して、間に合う手段のうち安いものを取る。この順番のほうが、後悔は少ないはずだ。
産院で渡されたあの一覧表には、期限が書かれていない。書き込むとしたら、そこからだろう。
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本記事は情報提供を目的とした参考としての内容であり、公表されている一次情報をもとに2026年9月時点でまとめたものです。特定の事業者・制度の利用を推奨するものではありません。価格や貸出条件は事業者・自治体によって異なり、変更される場合もあります。実際の利用にあたっては、各事業者の公式サイトやお住まいの自治体の窓口に直接ご確認のうえ、ご判断ください。
