「その予防接種、うちは有料なんですか?」小児科の受付で、順番待ちの母親が看護師に尋ねていた。差し出した母子手帳の予防接種の欄には「定期」「任意」の文字が並んでいる。どちらも同じ予約画面に並んでいるのに、費用の扱いだけが違うらしい。
定期と任意の境目
予防接種には、法律に基づく「定期接種」と、希望者が各自で受ける「任意接種」の2種類がある。定期接種は予防接種法に位置づけられ、市区町村が実施主体になる。対象年齢の間に受ければ、原則として自己負担はない。任意接種は予防接種法の対象外で、費用は原則として自己負担になる。自治体によっては一部を助成する制度もあるが、助成の有無や金額は自治体ごとに異なる。
この線引きは、母子手帳の予防接種スケジュール表を見ただけでは分かりにくい。両方とも同じ表に、同じような書式で並んでいるからだった。
見た目だけでは、どちらがどちらか区別がつかなかった。

生後2か月から始まる定期接種
厚生労働省は、生後2か月から接種を始めるワクチンとして4種類を挙げている(厚生労働省公式「生後2か月から推奨される予防接種」)。ロタウイルス、5種混合、子どもの肺炎球菌、B型肝炎の各ワクチンである。ロタウイルスワクチンは標準的に生後8から14週で初回接種。残る3種類は生後2か月から初回を始める。いずれもA類疾病の定期接種にあたり、対象年齢のうちに受ければ公費で受けられる。
裏を返せば、対象年齢を過ぎてから受けると、定期接種であっても自己負担に変わる場合がある。スケジュール表の年齢欄を見落とすと、公費で受けられたはずの接種が有料になってしまう。
東京都保健医療局の資料には、定期接種の対象年齢がさらに細かく載っている(東京都保健医療局公式「予防接種制度について」)。5種混合ワクチンの第1期は生後2月から生後90月に至るまで、BCGワクチンは1歳に至るまで、麻しん・風しんの第1期は生後12月から生後24月に至るまでと、疾病ごとに期限が細かく決まっている。「1歳になったら」ではなく「生後何月から何月まで」という単位で管理されている点は、母子手帳を見返すまで気づきにくい。

任意接種は自己負担が原則
任意接種の代表格が、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)のワクチンである。世田谷区の公式サイトは、おたふくかぜの予防接種について「法律に基づかない任意予防接種」と明記している(世田谷区公式「おたふくかぜの予防接種の費用助成」)。区は満1歳から小学校就学前を対象に、1回あたり3,000円を2回まで助成しており、接種費用と助成額の差額が自己負担になる仕組みだった。
接種費用そのものは医療機関ごとに設定が異なるため、助成額を差し引いても、自己負担が0円になるとは限らない。日本小児科学会は、1歳のときと、小学校就学前の2回接種を推奨していると同ページに記載がある。任意接種でも、受ける時期と回数の目安は決まっている。
任意接種は他にもある
任意接種は、おたふくかぜだけではない。東京都保健医療局の資料では、季節性インフルエンザも「主な任意予防接種」の一つに挙げられており、生後6か月から13歳未満は2回、13歳以上は1回という接種回数の目安が示されている(東京都保健医療局公式「予防接種制度について」)。同じ資料は、おたふくかぜの接種対象を1歳以上とし、生後24から60月の間に接種することが望ましいとも記している。
ここで気づいたのは、都道府県が示す「望ましい接種時期」と、区市町村が独自に定める助成の対象年齢は、必ずしも同じ幅ではないということだった。世田谷区の助成対象は満1歳から小学校就学前までで、東京都の資料が示す望ましい時期の幅より広い。任意接種は、国や都道府県の目安と、住んでいる市区町村の助成制度の両方を確かめて、初めて自己負担の実額が見えてくる。
健診にも法定の境目がある
予防接種だけでなく、乳幼児健診にも法律で定められた境目がある。こども家庭庁の公式サイトは、母子保健法第12条において「1歳6か月児」及び「3歳児」に対する健診の実施が市町村に義務付けられていると説明している(こども家庭庁公式「乳幼児健診に関する取組み」)。この2つの健診は、全国のどの市町村でも実施される。
一方、3から6か月児健診や9から11か月児健診は、市町村への地方交付税措置という形で財政的な裏付けはあるものの、1歳6か月児・3歳児健診のような法律上の実施義務までは課されていない。1か月児健診や5歳児健診は国庫補助の対象で、全国展開はまだ広がっている途中の段階にある。同じ「健診」という言葉でも、制度上の位置づけには段差があった。

財源の仕組みで変わる普及の度合い
地方交付税措置とは、国が市町村の一般財源に健診費用を算定として組み込む仕組みである。使い道を健診に限定する補助金とは違い、実施するかどうかは各市町村の判断に委ねられる。こども家庭庁の同じページによれば、1歳6か月児健診と3歳児健診にも地方交付税措置が行われ、全国で実施されている。母子保健法第13条は、第12条の健診のほか、必要に応じた健康診査の実施と勧奨を市町村に求める。国庫補助はこれと別で、実施した市町村へ個別に補助金を出す。1か月児健診と5歳児健診はこちらにあたり、全国展開を図る支援事業や健診医の研修事業が置かれた段階にある。
世田谷区の助成に見る実際
では、法定接種以外の費用は、どのように補われているのだろうか。世田谷区のおたふくかぜ助成を例に取ると、助成券は区内の指定医療機関に設置されており、区への事前申込みは不要である。受付で住所と生年月日が確認できるものを提示し、助成券に必要事項を記入したうえで、接種費用と助成金額の差額を医療機関へ支払う。
助成の対象や金額は、自治体の方針や予算によって変わる。同じおたふくかぜワクチンでも、住んでいる市区町村によって、自己負担の実感はかなり違ってくるはずだ。自分の住む自治体では、同じ助成がいくらになるのだろうか。答えは、自治体の公式サイトを開いてみるまで分からない。

勘違いしていたこと
定期接種はすべて無料で、任意接種はすべて全額自己負担だと考えていた。しかし実際には、任意接種でも自治体の助成が付くことがあり、定期接種でも対象年齢を外れれば自己負担になる。「定期・任意」という区分と、「無料・有料」という実感は、必ずしも一致しない。
母子手帳のスケジュール表を見るときは、「定期」か「任意」かだけでなく、対象年齢のうちに受けられているかどうかも、あわせて確かめておきたい。区分の名前を覚えるより、目の前の1回がいつまでに受けるべき回なのかを、そのつど確認する方が実用的だった。
手続きで気をつけたいこと
定期接種を公費で受けるには、多くの自治体で予診票への記入と対象年齢の確認が必要になる。転居した直後は、前の自治体で発行された予診票が使えない場合もあるため、早めに窓口かウェブサイトで確認しておくと安心である。任意接種を自治体の助成で受ける場合も、世田谷区の例のように、母子健康手帳や本人確認書類の持参が求められることが多い。
持ち物を一つ忘れただけで、その場では受けられなくなる。
接種のスケジュールは、体調不良や日程の都合で前後することもある。予定どおりに進まなかったときは、公費で受けられる期限がいつまでかを、その都度かかりつけの医療機関か自治体の窓口に確かめるしかない。定期接種の対象年齢を過ぎてしまいそうなときほど、早めに相談しておく方がよい。
きょうだいで条件が変わることもある
複数の子どもがいる家庭では、上の子と下の子で受けられる制度が違うこともある。制度が新設されたり、対象年齢が広がったりするタイミングによっては、同じ家庭の中でもきょうだいごとに扱いが分かれる。予防接種や健診の制度は毎年のように見直されているため、上の子のときの記憶だけで判断せず、下の子の分もそのつど確認しておく必要がある。
実際、こども家庭庁の資料は令和8年に入ってからも複数回更新されている。数か月前に確認した情報が、次の子のときにはそのまま通用しないこともある。制度が変わったかどうかを毎回一から調べ直すのは手間だが、対象年齢や助成額を誤って自己負担が増えてしまう方が、後になって痛手は大きい。
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児童手当と乳幼児医療費助成、申請もれを防ぐ段取りも参考にしてほしい。
免責事項
本記事で紹介した予防接種・乳幼児健診の制度や費用助成の内容は、2026年9月時点で厚生労働省・こども家庭庁・世田谷区の公式サイトに掲載されていた情報を基にした一般的な整理であり、すべての制度や金額を網羅するものではない。制度の詳細や最新の対象年齢・助成額を保証するものではないため、実際の接種や申請にあたっては、お住まいの市区町村やかかりつけの医療機関で最新の情報を確認したうえで、ご判断いただきたい。
