10月に入ると、大型スーパーの子ども用品売り場の一角に「ラン活コーナー」の案内板が立つ。棚には色とりどりのランドセルが十数種類並び、値札には3万円台から8万円台まで幅のある数字が並んでいる。上の子のときは早々に決まった記憶があるのに、下の子の分を選ぶ段になって、値札の桁がひとつ上がっていることに気づく。
最初に立てていた予算は4万円前後だった。上の子のランドセルがちょうどそのくらいの値段だったので、下の子も同じ水準で収まるだろうと踏んでいた。上の子のときは近所の鞄専門店で1つだけ見て決めた記憶があり、比較らしい比較をした覚えもなかった。
ところが実際に展示会を回ってみると、その価格帯の商品は棚の端に少数置かれているだけだった。目立つ場所に並ぶのは、決まって6万円を超える商品ばかりだ。安い型を探すには、案内板の裏まで歩く必要があった。
値札を二度見した。
平均6万円という現実
ランドセル工業会「ランドセル購入に関する調査 2026年」によると、2026年4月に小学校へ進学する児童のランドセルを新しく購入した人1,500人の平均購入金額は62,034円で、前年調査より1,200円以上上がっている。価格帯別に見ると、「65,000円以上」を選んだ層が全体の46.0%を占め、ほぼ半数が最上位の価格帯に集まる形になっている。次に多いのは「55,000円〜64,999円」の18.1%で、この2つの区分だけで全体の6割を超える。

逆に「24,999円以下」を選んだ層は6.3%、「25,000円〜39,999円」は8.6%にとどまる。4万円前後という当初の予算は、平均額よりも2万円以上低い水準だったことになる。展示会で目立つ場所に高価格帯の商品が並んでいたのは偶然ではなく、実際に多くの家庭がその価格帯を選んでいる結果だった。
数字を先に知っていれば、少なくとも「なぜ安い商品が少ないのか」で戸惑う時間は減らせたはずだ。
決め手は色とデザインだった
同じ調査では、購入の決め手(複数回答)として最も多く挙がったのが「子どもの好きな色だった」で52.5%、次いで「デザインがよかった」が35.1%となっている。「フィット感があり、背負いやすそう」21.6%、「軽かった」19.7%、「有名なブランドだった」17.5%と続く。その下には「子どもが好きな要素があった」14.7%、「国産のメーカーだった」14.4%、「丈夫で壊れにくそうだった」13.9%、「機能がよかった」13.5%が並び、「価格がよかった」の13.1%は上位10項目の中で最も低い。

展示会でも、子どもが最初に足を止めるのは色とデザインだった。気に入った色の商品を背負わせると、その時点で本人の希望がほぼ固まる。あとから価格の話を持ち出しても、比較の軸としては働きにくくなっていた。
決め手の上位が価格ではなく色とデザインである以上、選ぶ場所が高い価格帯へ寄っていくのは自然な流れだったと、あとになって腑に落ちた。子ども本人の希望を先に固めてしまうと、大人が価格の話を後から差し込む余地は驚くほど狭い。
展示会のスタッフも、色とデザインの希望を最初に聞いてから、その色がある価格帯の商品を案内する流れになっていた。売り場の動線そのものが、色を起点に組まれている。価格を起点に考えたい大人と、色を起点に選びたい子どもとでは、そもそも売り場の中での動き方がかみ合っていなかった。
通学関係費という数字のからくり
文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」によると、公立小学校に通う子ども一人当たりの学校教育費は年間74,336円になる。そのうち「通学関係費」は21,718円で、構成比にして29.2%を占めている。
通学関係費とは、通学のための交通費、制服、ランドセルなどの通学用品の購入費を合わせた項目だ。内訳の中では「図書・学用品・実習材料費等」の26,860円に次いで大きく、全体の3割近くを占めている。

ここで気をつけたいのは、この21,718円が1年生から6年生までの6学年を通した平均値だという点だ。ランドセルは入学時の一度きりの購入で、6年間使い続ける前提の買い物になる。62,034円という購入金額を6年で割れば年あたり1万円程度だが、支払いそのものは入学前の一度に集中する。
年間平均の数字だけを見ていると、入学前に一時的に膨らむ支出の実際の大きさが見えにくくなる。制服代や学用品費も同じ時期に重なるため、通学関係費の平均値をそのまま入学前の予算として当てはめると、実際の支出より小さく見積もってしまう。
あとから振り返ると、見ておくべきだったのはこの「平均値と一括払いのずれ」だった。入学準備は制服・体操着・学用品・ランドセルがほぼ同じ数か月に集中して発生する。年間ならしの数字だけを家計簿の目安にしていると、入学前の数か月だけ支出が跳ね上がる理由が分からないまま、その時期のやりくりだけが苦しくなる。
展示会をはしごした結果
予算を明確に決めないまま、GMSの特設コーナー、百貨店の催事場、メーカーが開く展示会を順に回った。同じ調査では、検討や購入のために訪問した場所として「GMS/大型スーパー/モール」が38.1%でもっとも多く、次いで「百貨店/デパート」17.3%、「メーカー/卸しのWeb」17.1%と続いている。複数の場所を回って比較する家庭が多いことは、調査結果とも一致していた。

回る場所が増えるほど、目にする商品の数も増える。最初の店で「これでいいか」と思っていた候補が、次の店でより気に入った色に出会うたびに揺らいだ。
結局は最後に見た店の、より高い価格帯の商品に落ち着くという流れをたどることになった。比較のための情報収集のはずが、選択肢を広げるほど予算の歯止めが利かなくなっていく。3店目を回った時点で、最初の予算のことはほとんど頭になかった。
4万円という数字は、どこかに置き忘れたままだった。
予算を先に決めてから見に行く
下の子の分を選ぶときは、展示会を回る前に上限額を決め、その金額を家族で共有してから出かけることにした。色とデザインを子どもに選ばせる範囲は、決めた上限額の中に収まる商品に限定する。
気に入った色が上限を超える価格帯にしかない場合、色よりも価格を優先するのか、追加の予算を認めるのかを、その場ではなく事前に話し合っておく。重さや背あての厚み、保証の年数といった機能面の比較は、価格帯を絞り込んだあとに行う順番に変えた。先に機能で候補を絞ってから色を選ばせると、子どもの希望と予算の折り合いがつけやすくなる。

比較の順番を変えるだけで、店を出るまでの時間も短くなった。候補が最初から絞られているので、子どもも迷う対象が少なく、その場で決めやすい。前回のように3店舗をはしごする必要もなく、2店舗目でおおよその方向が固まった。
上限額をどう子どもに伝えたか
上限額を決めても、それを子ども本人にどう伝えるかは別の課題だった。「いくらまで」と金額だけを示しても、小学校入学前の子どもには実感がわきにくい。そこで、上限額の範囲に収まる商品を先に3つほど選び、その中から選んでもらう形に変えた。
選択肢を絞ってから見せると、子どもは「どれがいいか」を考えることに集中できる。範囲の外にある商品を目にする機会自体が減るので、あとから「あっちのほうがよかった」となる場面も少なくなった。上限額を先に決め、その範囲の中で選ばせるという順番が、結果として子どもの納得感にもつながっていた。
この基準で本当に歯止めがきくのかは、下の子が実際に背負って通い始めるまで見えてこない。ただ、展示会に着く前に上限額を家族で共有しておく手順そのものは、このあと控える学習机や制服の買い物にもそのまま使える。
検討を始める時期も、調査結果を参考に見直した。同じ調査では、検討開始の時期として入学前年の4月が16.7%でもっとも多く、次いで入学前々年の12月が14.9%、5月が10.5%と続いており、年末から早めに検討を始める家庭が一定数いることが分かる。

早く動き始めれば、人気の色やモデルが店頭からなくなる前に、予算内の選択肢からじっくり選べる余地も広がる。逆に検討を始めるのが遅くなるほど、残っている選択肢が限られ、結果として高い価格帯に流れやすくなるという面もありそうだ。
残り枠が少ない時期に選ぶことになれば、上限額を決めていても、その中に収まる商品自体が売り切れているかもしれない。時期を早めることと、上限額を決めておくことは、別々の対策ではなく、セットで効いてくる話だった。
検討を始める時期は、もう決まっているだろうか。色やデザインのほかに、価格を含めた基準を家族で共有できているか。展示会を回る前にその2点を決めておくだけで、比較のための情報収集が予算を押し上げる方向にばかり働くことは防ぎやすくなる。
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ランドセルの価格帯や購入時期の傾向は、調査対象や年度によって変わる。ここで挙げた数字は参考として捉え、実際の予算や購入時期は、それぞれの家庭の事情に照らして判断してほしい。
