月謝の引き落とし明細で見えた習い事の膨張

体操教室の入口で子どもを見送ったとき、時計は午後3時を回っていた。9時のスイミング、11時のピアノと数えて、その日3か所目の送迎だった。車を停めた駐車場でエンジンを切り、財布から出したのは3枚目の駐車券。土曜がまるごと送迎で埋まるようになったのは、いつからだったか。始めた時期はどれもばらばらで、ひとつ増えるたびに「これくらいなら」と思っていたはずだった。

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ひとつずつは無理のない選択だった

最初に始めたのはスイミングだった。体力づくりのつもりで、月謝は地域の相場並みだと聞いていたので、家計への影響はそれほど気にしていなかった。次にピアノを始めたのは、周りの子が習い始めた時期に合わせた面が大きい。体操教室は本人が興味を示したことがきっかけで、どれも始める理由は納得できるものだった。

始めるタイミングもそれぞれ違っていた。スイミングは年少の終わりごろ、ピアノは年中になってすぐ、体操教室は小学校に上がる直前だった。1年以上の間隔をあけて増えていったため、その都度「今の家計なら無理なく続けられる」という判断をしていたはずだった。ひとつを始めるときに、すでにある習い事の月謝と合わせていくらになるかを計算した記憶はほとんどない。

体操教室を始めたときのことは特に覚えている。見学に行った日、本人が目を輝かせて跳び箱に挑戦する姿を見て、月謝の額よりも先に「やらせてあげたい」という気持ちの方が勝った。その場で入会の手続きをして帰る道すがら、既存の2つと合わせた月謝が、ひとつ分の感覚で考えていた額とはまるで違う水準になることに、ようやく気づいた。それでも「今月から始めるわけではないし」と先送りにして、結局そのまま入会した。

月謝の引き落とし明細を毎月ひとつずつ見ている限りでは、大きな金額には見えなかった。増えたのは口座からの引き落とし件数であって、合計を意識する機会が長らくなかった。銀行のアプリには習い事ごとに別々の取引として表示され、月末にまとめて見返すという発想も浮かばずにいた。

3つの習い事を始めた時期と当時の見込みを順に示した概念図
習い事を始めた時期と、そのときの見込み ※概念図(実測データではありません)

明細を並べて気づいたこと

きっかけは、何気ない通帳記帳だった。

ある月、通帳記帳をまとめてしていて、引き落とし欄に並ぶ習い事関連の項目を初めて足し合わせてみた。3件分の月謝を合計すると、想像していた額より確実に大きく、固定費として見たときの重みに気づかされた。文部科学省が公表している令和5年度の子供の学習費調査によると、公立小学校に通う子どもの学校外活動費は年間で平均256,489円になる。うち学習塾費などの補助学習費が112,485円。残る「その他の学校外活動費」144,004円を月に直すと、およそ12,000円になる。

同じ調査は学年が上がるほど支出が増える傾向も示している。公立小学校の学校外活動費は第1学年で216,850円だったのに対し、第6学年では307,345円まで増えていた。ひとつひとつの習い事を始めるときには、その先の学年で費用がどう積み上がるかまでは考えていなかった。

公立以外の小学校の数字と見比べると、差はさらに開く。同じ調査によると、公立以外の小学校に通う場合の学校外活動費は平均709,667円となっており、公立の2.8倍にあたる。地域や学校の選び方によって前提となる金額の水準そのものが変わるため、他の家庭の話を単純に当てはめられない理由のひとつでもある。

公立小学校の学校外活動費を第1学年から第6学年まで学年別に示した図
公立小学校の学校外活動費(学年別・年額) ※文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」を基に作成

膨張の理由を数えてみる

なぜ気づかなかったのかを振り返ると、理由は単純だった。ひとつずつの月謝は「このくらいなら」と判断できる金額だったが、合計を見る習慣がなかった。引き落としは別々の日に別々の金額で行われるため、家計簿に転記するときも別の費目として扱っていた。

もうひとつの理由は、始めるときの基準はあっても、続けるかどうかを見直す基準がなかったことだ。体力づくりのため、周りに合わせて、本人の興味に応じて、それぞれの理由は間違っていない。ただ、始めた後に定期的に合計額を確認する仕組みがなければ、増える一方になってしまう。

これは意思が弱いという話ではなく、確認の手順が抜けていただけだ。仕組みがなければ、誰にでも起こりうる。

振り返ってみると、送迎の時間帯が重なっていないかは毎回確認していたのに、金額が重なっているかどうかは一度も確認していなかった。時間の管理には気を配っていた分、お金の管理が手薄になっていたという偏りに、明細を並べて初めて気づいた形になる。

送迎表は冷蔵庫という目につく場所に貼ってあったのに対し、月謝の明細は通帳やアプリの中に沈んでいた。目に触れる頻度の差が、そのまま意識する頻度の差になっていたのだろう。

月謝が積み上がった三つの構造的な理由を並べた概念図
月謝が積み上がった三つの理由 ※概念図(実測データではありません)

上限を先に決めてから見直す

立て直しのために最初にしたのは、習い事全体にかけられる月あたりの上限額を先に決めることだった。上限を決めずに1件ずつの是非を考えると、どれも続ける理由が見つかってしまい、結局は減らせない。上限額を家計の中で先に確保してから、その枠に収まるように組み合わせを見直す方が、判断はしやすかった。

上限額を決める際の目安として、文部科学省の調査にある「その他の学校外活動費」の平均月額を参考にした。公立小学校の平均は月に12,000円ほどで、この水準を大きく超えているようであれば、何かを見直す余地があると判断する基準にした。もちろん平均はあくまで平均であり、そのまま鵜呑みにするつもりはない。ただ、判断の出発点として数字を持っておくことには意味があった。

その144,004円が何に使われているかも、調査は内訳まで示している。最も大きいのはスポーツ・レクリエーション活動の66,529円で、次いで教養・その他が36,111円、芸術文化活動が33,708円と続く。体験活動・地域活動は6,331円、国際交流体験活動は1,325円にとどまる。スイミングと体操が2枠を占めている状態は、平均から見ても偏りの大きい配分だった。

見直しの過程では、3つのうち、本人が最も楽しみにしているものと、送迎の負担が最も軽いものを軸に残し、もうひとつは学期の区切りで一度休むことにした。やめるのではなく休むという選択にしたのは、興味が戻ったときに再開しやすくするためだ。

休むことを伝えたときの反応は、思っていたよりも軽いものだった。理由をきちんと話せば、子ども自身も納得してくれる場面は多い。むしろ気にしていたのは大人の側で、始めたときの熱意を裏切るのではないかという迷いが先に立っていた。実際に休んでみると、その分だけ平日の夕方に余裕ができ、宿題を落ち着いて見る時間が増えるという副次的な変化もあった。

上限を決めてから半年ほど経つが、月々の引き落とし額を毎月まとめて確認する習慣は続いている。確認そのものは月に一度、通帳とカレンダーを見ながら数分で終わる作業だ。手間がかからない仕組みにしたことで、続けやすくなった。

公立小学校のその他の学校外活動費の内訳を金額の大きい順に並べた図
公立小学校のその他の学校外活動費の内訳(年額) ※文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」を基に作成

いつから・いくらまでを考える

いつから始めるかという問いに、決まった正解はないのだろう。文部科学省の調査では、幼稚園の年少にあたる3歳児でも、スポーツ・レクリエーション活動に公立で平均11,960円が使われている。年長の5歳児になると34,947円まで増えており、年齢が上がるにつれて選択肢も費用も広がっていく様子がうかがえる。

早く始めるほど有利だという考え方もあれば、体力や興味が育ってから始めた方が長続きするという考え方もある。どちらが正しいかを断定できる材料は手元になく、始める時期については家庭ごとの判断に委ねるしかない。

いくらまでにするかという問いの方が、家庭ごとに答えを持ちやすい。教育投資の効果を扱った書籍でも、効果の出方は子どもや条件によって一律ではないと指摘されている。家庭の状況によって最適な配分は異なるため、すべての家庭に当てはまる金額の目安を示すことは難しい。少なくとも合計額を定期的に確認する仕組みを持つことは、どの家庭でも取り入れやすい。

今の習い事の合計額を、最後に確認したのはいつだろうか。始めたときの理由と、今も続けている理由は、同じままだろうか。

送迎表の隣に、合計額を書き込む欄をひとつ増やしてみようと思う。マス目を埋めるたびに、金額も一緒に目に入るようにしておきたい。

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習い事や塾にかけたお金がどう効くのかを、教育経済学のデータに沿って整理した1冊。上限額を決めるときの考え方の材料になる。

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本記事の金額は文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」など公表資料を基に構成している。実際の費用は地域や教室、家庭の状況によって異なるため、本記事は特定の習い事や金額の目安を推奨するものではない。

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この記事を書いた人

4人家族で妻、息子、娘で関西に新築建てて住んでいます。日々、家族の要望に応えられるように未来に関係しそうなことやお金に関すること調べてこっそり、生活に取り入れています。

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