5月上旬、郵便受けに紺色の封筒が入っていた。自動車税の納税通知書だった。総排気量1,500ccの乗用車1台分として印字されていた金額は30,500円。去年も同じ数字を見た気がするが、今年は同じ月に車検の見積書も届いていた。2枚の紙を並べて置くと、維持費という言葉がぼんやりした感覚から、具体的な数字の集まりに変わって見えてきた。
封筒を開けたその日のうちに、2枚を並べて電卓を叩いてみた。これまでは毎年なんとなく支払っていた金額を、今年は初めてきちんと数え直すことにした。
通知書の数字を並べる
自動車税は総排気量によって区分が決まる。東京都主税局が公表している税額表では、令和元年10月1日以後に初回新規登録した自家用の乗用車の場合、1リットル以下は25,000円、1リットル超1.5リットル以下は30,500円となる。1.5リットル超2リットル以下は36,000円で、排気量が上がるごとに段階的に高くなっていく。地方税法の標準税率にあたるため、この区分と金額はどの都道府県でもほぼ同じだ。なお令和8年4月1日から、この税は「自動車税種別割」ではなく「自動車税」という名称に戻っている。
総務省が公表している軽自動車税の資料では、四輪以上の軽自動車のうち自家用乗用のものは、標準税率で年額10,800円とされている。普通車との差は年間で2万円前後になる。数字だけを見れば軽自動車の優位は明らかだが、乗せる人数や荷物の量によっては選べない場合もある。
車検の見積書には、点検整備費用とは別に自動車重量税という項目が印字されていた。国土交通省が公表している2026年5月1日からの税額表では、乗用車の重量税は車両重量0.5トンごとに区切られている。2年自家用で本則税率が適用されるエコカーの場合、0.5トン以下で5,000円、1トン以下で10,000円、1.5トン以下で15,000円だ。エコカー減税の対象から外れると同じ区分がそれぞれ8,200円、16,400円、24,600円に上がる。通知書と見積書、2枚の紙に印字された数字を足し合わせるだけでも、年間の固定費として無視できない額になる。

3つの選択肢と譲れない条件
通知書と見積書を前に、選べる道は大きく3つに整理できる。ひとつは今の車に乗り続けること、もうひとつは車検を機に別の車に買い替えること、最後は車を手放してカーシェアや公共交通に切り替えることだ。どれが正解というものではなく、生活の条件によって答えが変わってくる。
条件を書き出すと、通勤に使うかどうか、子どもの送迎や習い事の送り迎えに使う頻度、月極駐車場の契約が残っているか、休日の買い物や旅行で乗る回数がどれくらいあるかといった項目が並ぶ。ここで厄介なのは、頻度が「週に2回」なのか「月に2回」なのかで、手放したときの不便さがまったく違ってくる点だ。月に数回であればカーシェアで代替できても、週に何度も送迎に使っているなら、手放す選択肢は現実的ではなくなる。
書き出す作業は思っていたより時間がかかった。平日の送迎だけでなく、休日の買い物、急な通院、雨の日の駅までの送り迎え。メモは十数項目になった。
並べてみて見えてきたのは、頻度が高い用途ほど代替手段を探すのが難しいという当たり前の事実だった。買い物であれば宅配や近隣の店で代用できる余地があるが、決まった時間に子どもを送り届ける用途は、代わりが利きにくい。
もうひとつ見落としていたのは、天候や体調といった不確実な要素だ。雨が続く週や、家族の誰かが体調を崩した時期には、公共交通よりも車の方が明らかに動きやすい。頻度だけで測ろうとすると、こうした「たまにしか起きないが起きたときの負担が大きい」場面を見落としてしまう。表計算で頻度を数えるだけでは条件の全体像はつかめず、月に一度あるかないかの用途もリストに残しておくことにした。近所に住む親族の送迎を頼める距離かどうかも、リストに加えてから初めて意識した項目だった。
税金と重量税を並べて比べる
選択肢を絞る前に、税金の内訳を並べておく。自動車税は総排気量2リットル超2.5リットル以下で43,500円、2.5リットル超3リットル以下で50,000円と上がり続ける。6リットル超では110,000円に達するが、多くの家庭が使う乗用車は1.5リットルから2リットルの帯に集中している。この帯の中であれば、税額の差は年間で5,500円にとどまる。
自動車重量税は車検のたびに2年分をまとめて支払う分、体感の負担が大きい。国土交通省の税額表では、車両重量1トン超1.5トン以下の乗用車がエコカー減税の対象から外れる場合、2年自家用で24,600円になる。ここに新車新規登録から13年を超えると34,200円という重課が重なる。同じ条件の軽自動車は2年で6,600円だ。
年額にならして比べてみる。1.5リットル前後の普通車なら、自動車税30,500円に重量税の1年分12,300円を足して42,800円。軽自動車は10,800円と3,300円で14,100円になる。税金だけで年間2万8千円の差がつく計算だ。


月々の維持費を試算する
税金以外の項目も並べないと、月々の負担感はつかめない。総務省統計局の家計調査によると、2025年平均で二人以上の世帯が自動車等関係費に使った金額は月28,355円だった。前年より名目15.2%増えているが、これは2024年に一部自動車メーカーの生産・出荷が止まった反動という事情が大きい。車を持たない世帯も含めた平均であるため、実際に1台を保有している家庭ではこれより高くなることが多い。
ガソリン代も維持費の中で変動が大きい項目だ。資源エネルギー庁の調査を基にした報道によると、2026年8月31日時点のレギュラーガソリン全国平均価格は1リットルあたり170.0円だった。月に200キロメートルを走り、燃費をリッター15キロメートルと見積もると、月あたりの燃料費はおよそ2,300円になる。同じ家計調査には、2025年12月にガソリン税の当分の間税率が廃止されたことも記録されている。相場だけでなく制度の変更でも動く費目だということだ。
ここに任意保険料や駐車場代を積み上げていく。税金の月割り分は先ほどの年額42,800円をならして月3,600円ほど。任意保険料は等級や車両保険の有無で幅が大きいが、月あたり4,000円から6,000円程度を見込む家庭が多い。月極駐車場は地域差が大きく、都心部では1万円を超える一方、郊外では数千円で収まる場合もある。合わせると、月々の固定費として1万円台後半から2万円台に届くケースが多い。
整備費も見落としやすい項目だ。オイル交換やタイヤ交換、バッテリー交換といった定期的な出費は、車検の間の年でも発生する。毎月決まった額ではないため見えにくいが、年間でならすと数万円単位になることが多く、月々の積み立てとして扱う方が家計簿には反映しやすい。

判断基準を先に決める
数字が揃ったところで、比べる前に基準を決めておく必要がある。基準を後から選ぶと、出したい結論に都合のいい項目だけを選んでしまいやすい。優先順位の付け方として、使用頻度を最優先に置く方法がある。次に月々の固定費が家計に占める比率、その次に代わりの移動手段が確保できるかどうか、最後に手放した場合の初期費用や手続きの手間、という順番で並べる。
使用頻度は「週に何回」で数えると輪郭がはっきりする。月に数回程度であればカーシェアで代替できる可能性が高いが、週2回を超えると予約の取りづらさが生活の支障になりやすい。
この並べ方に絶対の正解はない。子どもが小さく送迎の頻度が高い時期と、子どもが自転車や電車で移動できるようになった時期とでは、優先順位そのものが入れ替わっても不思議ではない。基準は一度決めたら固定するのではなく、生活の変化に合わせて見直す前提で置いておく方が扱いやすい。

基準に当てて比べる
先に決めた4つの基準に、3つの選択肢を当ててみる。乗り続ける場合は使用頻度の面では最も安心できるが、月々の固定費は3つの中で最も重くなる。買い替える場合は車両重量やエコカー減税の条件次第で税金の負担を抑えられる余地があるものの、初期費用がかさむ。
手放してカーシェアに切り替える場合は固定費が大きく下がる一方、週に何度も使う生活には合わない。
この段階で見えてくるのは、どの選択肢にも譲れない部分と諦める部分が両方あるという当たり前の事実だ。固定費だけを見れば手放す選択が合理的に見える。ただ送迎の頻度を考えると、生活の組み立て自体を変える必要が出てくる。数字の比較だけでは決めきれない部分が残るのは、家庭の事情がそれだけ個別性の高いものだからだろう。
評価マトリクスを埋めながら気づいたのは、基準ごとに重みを変えて考え直すと、答えが揺れ動くという点だった。固定費の比率を重く見れば手放す方に傾き、送迎の安定を重く見れば乗り続ける方に傾く。どちらの重み付けにも一理あるからこそ、最終的にどちらを選ぶかは、数字よりも生活の実感に近いところで決まっていく。
マトリクスを見直しているうちに、初期費用の項目も無視できないと分かってきた。買い替える場合は頭金や登録費用がまとまって必要になり、手放す場合も名義変更や抹消登録の手続きに時間がかかる。乗り続ける場合はこうした初期費用が発生しない代わりに、車検のたびに整備費用がまとまって出ていく。どの選択肢を取っても、どこかのタイミングでまとまった支出が生じる構造になっている。

決めた理由とその後
今回のケースでは、送迎の頻度を最優先に置いた結果、車検を通して乗り続ける選択に落ち着いた。ただし固定費の重さは無視できないため、任意保険を見直して等級や補償内容を再確認し、駐車場の契約も近隣の相場と比べ直すことにした。
手放す選択肢を選ばなかったことが数年後も正しい判断だったと言えるかどうかは、今の時点では分からない。
先に触れた家計調査で費目別の月平均額を並べると、自動車等関係費28,355円は、光熱・水道の24,547円を上回る。消費支出全体に対する割合はおよそ9%だ。光熱費の節約には気を配っていても、それより大きな支出を年に一度しか点検していない、という状態はめずらしくない。

維持費の線引きは一度決めて終わりではない。子どもの成長や働き方の変化に合わせて、通知書が届くたびに数字を数え直す作業になる。天候や体調で車に頼る場面が残っている限り、頻度の低さだけを理由に手放す判断はしないつもりだが、その考えも数年後には変わっているかもしれない。
車を持つべきか手放すべきか、迷ったときに何を基準にすればいいだろうか。送迎や通勤で週に何度使っているか、数えてみたことはあるだろうか。
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車の維持費だけを切り離して考えるより、通信費や保険料と並べて固定費全体を点検する方が、削れる余地は見つけやすい。その順番の付け方をまとめた入門書として読まれているのが次の1冊。
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本記事の税額・価格は2026年9月時点で確認できた公表値を基に構成している。制度や税率は改定される場合があるため、実際の金額は最新の公式情報で確認してほしい。自動車の保有・買い替えに関する判断は家庭ごとの事情によって異なるため、本記事は特定の選択を推奨するものではない。
