カレンダーの4月の欄に、水色のマーカーで小さな丸がいくつも並んでいる。保育園に通い始めて最初の2か月、休んだ日に印をつけていくと、8個になった。体温計の表示は、37.8度、38.5度、39.1度と、日によって違う数字を映し出す。
入園から数週間は、拍子抜けするほど順調だった。慣らし保育も予定どおりに進み、母親は職場復帰のスケジュールを立て直していた。ところが5月に入ると、鼻水の止まらない日が続いたかと思うと、保育園から「38度を超えたのでお迎えをお願いします」という電話が、週に2回入るようになった。
復帰から1か月足らずでの呼び出しだった。
慣らし保育が終わったころ
年5日の子の看護等休暇は、5月の半ばで使い切った。残った日数をどう配分すれば、収入への影響を抑えられるのか。すぐには答えが出ないまま給与明細を確認すると、看護等休暇を取った日の欄に「無給」という表示がある。制度があるのだから休めば給料は出る、と思い込んでいたが、実際には勤務先の規定次第で無給扱いになる場合があると、このとき初めて知ることになる。
病児保育の予約を試みても、朝の空き枠はすでに埋まっている日が多い。予約は前日の夕方から埋まり始め、電話をかけた時点で当日分が満枠になっていることもあった。祖父母に頼める距離でもない。結局、看護等休暇を使い切ったあとは、年次有給休暇を切り崩しながら乗り切ることになった。
有給の残日数は、みるみる減っていった。
子の看護等休暇という制度
子の看護等休暇は、厚生労働省が案内する育児・介護休業法の制度で、2025年4月の改正により、対象の子の範囲が「小学校就学の始期に達するまで」から「小学3年生修了まで」に広がった。勤続6か月未満の労働者を対象外にできる除外規定も、この改正で廃止された。
取得できる日数は、厚生労働省が年次有給休暇と並べて整理した資料によれば、1年に5日まで、子が2人以上の場合は10日までで、時間単位での取得もできる。取得目的は「負傷し、又は疾病にかかった子の世話」と「疾病の予防を図るために必要な子の世話(予防接種又は健康診断を受けさせること)」に限られる。年次有給休暇のように「何に使ってもよい」休暇ではなく、目的があらかじめ決められている点が、年次有給休暇との違いになる。

取得事由には、2025年の改正で「感染症に伴う学級閉鎖等」と「入園(入学)式、卒園式」が加わった。子がインフルエンザにかかっていなくても、学級閉鎖で自宅にいる子の世話をするために取得できる。制度の名称もこの改正で「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変わっている。ただし、育児・介護休業法は、この休暇を有給にするか無給にするかまでは定めていない。取得中の賃金の扱いは、勤務先の就業規則に委ねられている。
「休暇がある」ことと「収入が保たれる」ことは、法律上は別の約束になっている。年次有給休暇であれば、平均賃金や通常の賃金相当額の支払いが労働基準法で決まっている。一方、子の看護等休暇に賃金の支払義務はない。同じ資料は、民法第536条により休暇期間中の事業主の賃金支払義務は消滅すると明記する。
「無給」だと分かった給与明細
あとで人事に確認すると、勤務先の就業規則では、子の看護等休暇は「無給」と定められていた。入社時に就業規則には目を通していたが、看護休暇の項目までは読み込んでいなかった。育児休業や時短勤務の説明は入社時の研修で聞いた記憶があるのに、看護休暇の賃金の扱いは記憶に残っていない。同じ資料に載っている令和3年度の雇用均等基本調査によれば、子の看護休暇制度の規定がある事業所(従業員30人以上)のうち、取得時の賃金を「無給」とする事業所は68.2%、「有給」は25.4%、「一部有給」は6.4%である。

看護休暇が無給の勤務先は、少数派どころか多数派に近い数字だ。
「制度があるから休める」ことと「休んでも収入が変わらない」ことは、別の話だ。分かっていれば、看護休暇を使い切ったあとの年次有給休暇の配分を、もう少し早い段階で考えられたはずだ。同じ調査を事業所の規模別に見ると、「有給」の割合は500人以上で41.2%、5〜29人で28.3%、30〜99人で25.7%、100〜499人で23.2%となっている。規模が小さいほど無給になりやすい、という単純な並びではない。勤務先の規模だけで見当をつけず、自分の就業規則を読むしかない。
病児保育とほかの選択肢を使い分ける
子どもの病気で仕事を休む日、実際にはどの制度がどれくらい使われているのだろうか。同じ資料に収録された厚生労働省の委託調査(日本能率協会総合研究所)では、1年間に子どもの病気のために利用した制度別の平均日数が、女性・正社員で子どもが1人の層について、年次有給休暇制度2.3日、祖父母など親族による看護1.1日、子の看護休暇制度0.8日、欠勤0.7日、その他の休暇制度0.4日、通常保育以外の預かりサービス0.2日と集計されている。

この数字が示すのは、看護休暇よりも年次有給休暇や祖父母の手を借りる日数の方が多いという実態だ。入園から数か月は体調を崩す回数が増えやすい時期で、平均的な年間日数を早いペースで使い切ってしまうことも起こり得る。看護休暇を軸に据えるだけでなく、年次有給休暇の残日数と、祖父母や病児保育をどこまで頼れるかも、入園前に並べておく必要がある。
平均は、あくまで平均でしかない。
同じ調査では、女性・非正社員の欠勤が平均2.6日で、制度別のなかで最も多い。正社員の欠勤0.7日とは4倍近い開きがある。雇用形態によって使える休暇そのものの日数や条件が違うためで、パート・アルバイトで働く場合は、そもそも子の看護等休暇の対象になるかどうかを入園前に確認しておきたい。
病児保育にも、名前の似た二つの型がある。回復期に至っていない病児を預かる「病児対応型」と、熱は下がったものの集団保育にはまだ戻せない回復期の子を預かる「病後児対応型」だ。どちらを利用できるかは自治体や施設によって異なり、当日の朝に発熱して急に預けたい場合と、数日前から回復を見込んで予約する場合とでは、頼れる先が入れ替わる。住んでいる自治体にどちらの型があるかを知らないまま、急な発熱の朝に慌てて調べ始めることになった家庭は、決して珍しくない。
予約の仕組みも、電話一本という施設がまだ多い。こども家庭庁が実施した調査では、自市町村内に病児保育施設がある645市町村のうち、空き情報の照会・提供についても、予約・キャンセルについても、「該当するシステムはない」と答えた市町村が80.2%を占めた。オンラインで空きを見て押さえる形は、まだ例外の側にある。朝の忙しい時間に電話がつながらず、そのまま予約を諦めたという話も出てくる。
立て直した運用
就業規則を読み直し、看護等休暇と年次有給休暇のどちらを先に使うと収入への影響が小さいかを確認した。病児保育は当日の空き状況を待つのではなく、発熱の兆候が出た時点で前日のうちに仮予約を入れる運用に変えた。

職場にも、事情を早めに共有するようにした。急な欠勤が続く時期があらかじめ分かっていれば、引き継ぎの相談もしやすくなる。逆に、何も伝えないまま欠勤だけが重なると、職場側も事情を推し量りにくい。
祖父母を頼る回数も、少しずつ増やした。距離があるぶん毎回とはいかないが、発熱の前兆が見えた時点で早めに連絡を入れておくと、対応できる日が増える。当日の朝になってから頼むのと、前日のうちに一報を入れておくのとでは、相手の都合のつけやすさがまるで違う。無理のない範囲を最初に決めておくことも、長く頼り続けるためには欠かせない。
半年ほど経つころには、呼び出しの頻度も落ち着いてきた。カレンダーの丸は、4月・5月に比べると目に見えて減っている。体が保育園という環境に慣れてくる時期があるのだと、そこで初めて実感する。
同じ状況にある家庭に一つだけ助言できるとすれば、入園前に「看護等休暇は有給か無給か」を人事や就業規則で確認しておくことだ。有給か無給かによって、看護休暇と年次有給休暇のどちらを先に使うべきかの答えが分かれる。病児保育の予約先や、祖父母に頼めるかどうかも、入園してから慌てて探すより、慣らし保育の期間にひととおり確認しておく方が、いざというときの迷いが少ない。保育園の洗礼と呼ばれる時期をどう乗り切るかは、制度の使い方一つで、家計への響き方が変わってくる。
次に読む
参考書籍(PR)
看病や欠勤をどちらが引き受けるかを夫婦で決める場面の対話を扱った本。制度の使い分けを家庭内で共有する手がかりとして。
【PR】
|
|
看護休暇の有給・無給の扱いや、病児保育の運用は、勤務先や自治体によって差がある。ここで挙げた数字や仕組みは参考として捉え、実際の休み方や制度の使い方は、それぞれの職場・地域の最新情報に従って判断してほしい。
