車を持たない暮らしを選ぶまでの、迷いと基準

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家の前の駐車スペースには、平日の朝と週末の買い物のときにしか動かない軽自動車が停まっている。日中のほとんどの時間、そこにあるだけだ。

ボンネットには、隣家の木から落ちた葉がうっすら積もっていた。前に洗ったのがいつだったかは思い出せない。

この車を、このまま持ち続けるべきか。手放して別の移動手段に置き換えるべきか。

答えを急がず、まず条件を並べ直すことにした。

目次

車を手放す前に整理すること

はじめにしたのは、書類を1か所に集めることだった。任意保険の継続案内、税金の通知書、点検の見積もり。車検証のファイルには何年分も重なっていて、1枚ずつはそれほど大きな額に見えない。束にして眺めると、重さが違って見えた。

次に、使う頻度と目的を書き出した。平日は保育園の送り迎え、週末は近所のスーパーとホームセンターへの買い物が中心で、遠出はたまにしかなかった。毎日長距離を走る使い方ではないという前提が、条件の1つ目になった。

その次に考えたのは、手放した場合に何で代替するかだった。候補に挙がったのは、時間単位で借りられるカーシェア、必要なときだけ借りるレンタカー、そして自転車と公共交通機関の組み合わせだった。

レンタカーは、24時間単位で借りる分には割安に見えたが、日帰りの買い物のたびに営業所へ出向いて手続きをする手間が引っかかった。カーシェアはアプリで予約から解錠まで完結する分、平日の細切れの利用には向いていそうだった。

手放すとなれば、下取りや個人売買でいくらか戻ってくる可能性もある。ただし今回は、その金額をあてにして判断を急がないことにした。査定額は状態や時期によって変わり幅が大きい。維持費と代替手段の比較だけでまず判断し、売却額は決めた後についてくる副産物として扱うことにした。

この話を切り出すと、送り迎えを主に担当している側からは慎重な反応が返ってきた。雨の日に自転車では厳しいのではないか、荷物が多い日はどうするのか、という心配だった。

まったくの杞憂ではない。季節や天候によって不便を感じる場面は実際に出てくるだろう。だからこそ、代替手段を1つに絞らず、複数を組み合わせる前提で試算をやり直すことにした。

子どもの保育園グッズや、週末にまとめ買いした食材を運ぶ場面も、話し合いの中で挙がった。自転車の前かごだけでは収まらない荷物量の日が、月に数回はある。こうした細かな条件を洗い出す作業は地味だったが、後から「聞いていなかった」とならないよう、気づいたことはその都度メモに残した。

家計調査に見る自動車の重み

総務省の家計調査 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要によると、2025年の二人以上の世帯における消費支出は1か月平均314,001円で、このうち「自動車等関係費」は28,355円だった(総務省統計局、2026年2月6日公表)。

この項目は前年より増えている。ただし資料はその理由を、前年に一部自動車メーカーの生産・出荷停止があったことの反動だと説明していた。年ごとの上下が、そのまま各家庭の負担の変化を表すわけではないということでもある。

総務省家計調査の「交通・通信」費目のうち自動車等関係費・通信・交通の月平均額を比較した棒グラフ(2025年平均・2026年2月6日公表)
「交通・通信」費目の内訳(二人以上の世帯・2025年平均・2026年2月6日公表) ※総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」を基に作成

内訳をたどると、この数字の位置づけがもう少し見えてくる。「交通・通信」費目全体は1か月45,730円で、そのうち自動車等関係費が6割以上を占めていた。残りは、電車やバスの運賃にあたる「交通」が5,703円、携帯電話やインターネットの「通信」が11,672円だった。

通信費より自動車関係の支出のほうが大きい。その構図は、恥ずかしながら意識していなかった。

ただしこの28,355円は、車を持たない世帯も含めた全世帯の平均であることに注意がいる。車を保有している家庭だけに絞れば、実際の負担はこれより高いとみられるが、家計調査の公表資料にはその内訳までは出ていなかった。手元にある保険や税金の書類を並べても、全国平均とそのまま比べられる数字にはならないと分かった。

任意保険の等級や、駐車場が月極かどうかでも金額は大きく変わる。今回、保険料や駐車場代を全国平均と比べて「高いか安いか」を判定するのはやめにした。比べるべきは全国平均ではなく、今まさに払っている自分たちの金額と、手放した後にかかる金額の差だと考え直したからだ。

家計調査の全国平均と自分の家庭の自動車関係費を単純比較できない3つの要因を示した概念図
全国平均と単純比較できない要因(保険等級・駐車場・地域差) ※概念図(実測データではありません)

手放した場合を試算する

代わりにカーシェアを使った場合の費用も確かめておきたかった。タイムズカーの利用料金ページによると、ベーシッククラスの時間料金は15分220円で、24時間まで使っても最大6,600円だという(タイムズモビリティ、2026年9月17日確認)。走行距離が20kmを超えた分には、1kmあたり20円の距離料金が別にかかる。

月額基本料金は別のページに出ていた。個人プランは880円で、同じ880円分が無料利用料金として利用料金に充当される。繰り越しはできないが、毎月ある程度使うなら基本料金がそのまま上乗せになるわけではない。

タイムズカーのベーシッククラスの時間料金・24時間までの最大料金・距離料金・月額基本料金を示した表(2026年9月17日確認)
タイムズカー ベーシッククラスの主な料金(2026年9月17日確認) ※タイムズモビリティ「タイムズカー 利用料金・月額基本料金」を基に作成

週1回、往復15km程度の買い物に3時間ほど使う頻度で計算してみる。時間料金は15分220円が12コマ分で2,640円、これを月4回で10,560円になった。走行距離は20kmに届かないので距離料金はかからず、基本料金は無料利用料金で相殺される。

1年に換算すると126,720円。車を保有し続けた場合より、だいぶ軽くなる計算だった。

ただしこれは、今の使い方をそのまま置き換えた場合の試算にすぎない。遠出や荷物の多い日には、時間料金より1日単位の最大料金を使うことになるし、そのぶん試算より膨らむ月も出てくるはずだ。毎月きっちりこの金額に収まるとは考えていない。

週1回・往復15km・3時間の利用を想定したカーシェア費用を1回あたり・月4回・年間換算で示した表(筆者試算)
カーシェアに置き換えた場合の試算(週1回・往復15km・3時間想定)を基に筆者が試算

判断基準を並べる

数字が出そろったところで、何を優先するかの基準を決めた。1つ目は月々の固定費が軽くなるかどうか。2つ目は急な病院への送迎や悪天候の日に、すぐ動ける手段が確保できるかどうか。3つ目は駐輪場や駐車スペースを探す手間がどれだけ減るかだった。

優先順位を決める段階でも、意見はすぐにはまとまらなかった。月々の負担を1番に置きたい気持ちもあったが、子どもが小さいうちは急な発熱やけがのほうが起きやすい。数字の軽さより、いざというときに動けるかどうかを先に置くべきだという結論に落ち着いた。

順番は、急な送迎への対応、月々の負担、手間と決まった。

車を手放すかどうかを判断するために決めた3つの基準を優先順位つきで示した概念図
車を手放すかを決めるための判断基準(優先順位つき) ※概念図(実測データではありません)

基準に当てはめてみる

急な送迎への対応で見ると、カーシェアは近くのステーションに車がなければ使えない。自宅から歩ける範囲にいくつかあることは確認できたが、悪天候の日や連休は他の利用者と重なりやすい。この点は車を保有する場合より確実に劣る。

一方で月々の負担は、試算のとおりカーシェアのほうが軽い。手間については、洗車や点検の予定を自分で管理する必要がなくなる分、カーシェアのほうが少ない。ガソリンスタンドに寄る手間や、バッテリー上がりを心配する必要もなくなる。

3つの基準のうち2つでカーシェアが有利という結果になった。だが急な送迎への対応で劣る点をどこまで許容できるかが、最後まで迷いどころとして残った。悪天候の日に空車が見つかるかどうかまでは、実際に使ってみないと分からないだろう。

車を保有し続ける場合とカーシェア中心に切り替える場合を3つの基準で評価したマトリクス
車の保有継続とカーシェア中心の暮らしの比較(3つの基準で評価) ※概念図(実測データではありません)

自転車に切り替えた朝の実際

決断の前に、平日の送り迎えを試しに1週間だけ自転車に切り替えてみた。坂道はほとんどない地域だったので、思っていたより体力的な負担は小さかった。雨の日が2日あり、そのうち1日はレインコートでしのげたが、もう1日は雨脚が強く、結局タクシーを呼んだ。

朝の時間帯は、車のときより10分ほど早く家を出る必要があった。信号待ちの回数は減ったが、荷物用のカゴにヘルメットと着替えを詰めると、それだけで結構な重さになる。子どもを乗せる後部の座席は、車のチャイルドシートほど安定感がなく、慣れるまでは速度を落として走った。

この試走で分かったのは、天候によって毎回同じ手段が使えるとは限らないという当たり前の事実だった。

ひとつの代替手段だけに賭けるのではなく、自転車・カーシェア・タクシーを状況に応じて使い分ける前提を置いたほうが、現実的だと感じた。

決めた瞬間、その後

手放すと決めていいのだろうか。最後まで背中を押しきれずにいたが、平日の送り迎えを自転車に切り替え、週末の買い物と急な用事にカーシェアを組み合わせる形なら試せると考え、車を手放すことに決めた。決め手になったのは、月々の負担の差より、悪天候の日を年に数回だけ別の方法で乗り切れば済むと考え直せたことだった。

家計調査の自動車等関係費の全世帯平均と、カーシェアに置き換えた場合の月間試算を比較した棒グラフ(筆者試算)
手放す前後の月間費用イメージ(家計調査の全世帯平均とカーシェア試算の比較)を基に筆者が試算

手放してからの数か月、悪天候の日にステーションの車が埋まっていて予約が取れなかったことが1度あった。その日はタクシーで対応したが、想定していた範囲の出費で収まった。子どもの発熱で病院へ向かった日も、幸い近くのステーションに空きがあり、事前に決めていた基準どおりに動けた。

判断の基準そのものは、今のところ間違っていなかったように見える。ただし、判断が正しかったのか、単に運がよかっただけなのかは、まだ見分けがついていない。悪天候の日が重なる時期が来て初めて、基準の強さが本当の意味で試されるはずだ。

通園先が変わって送り迎えの距離が伸びたときに、同じ基準のままでいいのかはまだ分からない。そのときはまた、使う頻度と目的を書き出すところからやり直すことになる。基準は一度決めたら終わりではなく、暮らし方が変わるたびに見直す前提のものなのだと、今回のことであらためて分かった。

手放した直後は、駐車していた場所が空いているのを見るたびに、少し落ち着かない気持ちになった。

今は、その空間に自転車と物置を置いている。

同じ状況の家庭に伝えられることがあるとすれば、比べる相手は全国平均ではなく、今の自分たちが実際に払っている金額だということだ。平均より高いか安いかを気にするより、手放した後の暮らしが具体的に想像できるかどうかのほうが、判断の助けになった。

次に読む

本文の金額は2026年9月時点で総務省統計局および各社公式サイトを基に確認した情報であり、実際の費用は使用頻度や地域、契約時期によって異なります。車を手放すかどうかを検討する際は、ご自身の使用実態を洗い出したうえで、家庭ごとの事情に照らしてご判断ください。

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この記事を書いた人

4人家族で妻、息子、娘で関西に新築建てて住んでいます。日々、家族の要望に応えられるように未来に関係しそうなことやお金に関すること調べてこっそり、生活に取り入れています。

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